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問われた「土地工作物責任」| 逗子市池子のがけ崩れ、遺族がマンション管理組合など提訴

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問われた「土地工作物責任」| 逗子市池子のがけ崩れ、遺族がマンション管理組合など提訴

約1億1千800万円の損害賠償など求め

神奈川県逗子市池子2丁目で2020(令和2)年2月、マンション敷地の斜面が崩れ、下の市道を歩いていた女子高校生(18)が亡くなる事故があった。生徒の両親は、事故から1年になった今年2月5日、マンションの区分所有者と管理組合、管理業務の委託を受けた管理会社を相手に1億1800万円の損害賠償を求める民事訴訟を横浜地裁に起こした。マンションという「土地工作物」の管理や保全に不備があったことによる事故だとして「土地工作物責任」が問われた。

  事故は2月5日午前8時ごろに起きた。現場は、マンション敷地から続く、路面からの高さ約16mのがけ地。車道の脇には人が並んで歩ける程度の幅の歩道がある。歩道から高さ8.2mまで擁壁があるが、その上の擁壁がなくなっている斜面部分から土砂が崩れ落ちた(図参照)。土砂の量は約66t。生徒は約20分後に助け出されて病院に運ばれたが、死亡が確認された。

「2020令和2年2月5日神奈川県逗子市で発生した土砂災害の調査結果」(最終版)から

 事故を受けて同月7日、国土技術政策総合研究所から専門家2人が現地に入って調査。2020年3月公表の調査結果・最終版では、現場について「東北東向きの日当たりの悪い急傾斜面、放射冷却及び強い季節風が相まって風化が促進される場所」だと分析。「 土層深(厚)が周辺の標準よりやや小さく、植生が貧弱であったため、風化防止作用が不十分だった」として、崩落の主因は「⽔による流動・崩壊ではなく、乾湿、低温等による風化」とした。
 
 調査結果で土地管理上の問題点は特に指摘されていなかったが、遺族は同年6月23日に業務上過失致死容疑でマンション管理社側を、過失致死容疑でマンションの区分所有者側を逗子警察署に告訴し受理された。捜査は現在も続いている。

 その後の昨年10月。事故発生前日の4日にマンションの管理人が敷地内の崩落した斜面の上部に亀裂があるのを発見して写真を撮影。管理会社に報告したものの、その情報が県と市には伝わっていなかったことが明らかになった。新聞報道などによると、管理人から写真報告を受けた管理会社は同日中に県横須賀土木事務所に電話し、県が行っていた土砂災害特別警戒区域の調査について尋ねたが、亀裂については伝えなかった。県への問い合わせを知った調査会社が管理会社に連絡すると、管理会社側から「来る機会があれば見てほしいものがある」と言われたという。管理会社が、事故前日に管理人が亀裂に気付いて写真を撮っていたことを県に伝えたのは事故から5日後だった。県側は亀裂と事故との関係は不明としつつ、「我々にできるのは現地を調べ、危険なら道路管理者の市に伝えること。事故を止められたのかというと難しいが、マンション側だけで抱えているよりは対応策があったかもしれない」と語ったという。

事故前日に撮られた亀裂の写真(神奈川県公表)
最近のがけ崩れの現場。
土砂が崩れた斜面(写真中央部分)の
補強工事が進められている

 この事故の状況を伝える同市の「広報ずし」2020年4月号によれば、現場一帯は土砂災害防止法に基づき土砂災害のおそれがある「土砂災害警戒区域」(イエローゾーン)に指定されていた。こうしたことも踏まえ、両親は死亡事故から1年の今年2月5日、損害賠償の提訴に踏み切った。両親側は、2003(平成15)年に現場マンションが建設されるにあたって地質調査が行われ、「風化により強度低下が進んでおり、落石防護などが望ましい」と指摘されたのに対策は取られなかった、と主張する。裁判で問うのは、管理や保全に不備・欠陥(瑕疵)があれば故意でなかったり過失がなかったりしても賠償責任(無過失責任)があるとされる「土地工作物責任」。開発されるがけ地や急斜面が多い日本の現状を考え
ると、今回の事故のように無過失責任が問われるケースが特殊事例だとは決して言えない。

 事故後、逗子市は土砂の撤去、仮復旧工事を行った。昨年12月、それまで市が負担していた仮復旧工事費など約3800万円については、市がマンション管理組合に無利子・無担保で貸し付け、組合は今年から13年間で分割返済するという内容で両者が合意、市議会も承認した。

事故発生当時の現場の様子
(国交省の資料から)

また、将来の安全確保のため、総額約5300万円(負担割合:国7、市3)で崩れた斜面の補強工事をする補正予算も市議会で可決され、3月から作業が始まった。同市都市整備課は「崩れた法面は民有地ですが、市民の安全のために急を要するということで市がお金を出しました。あくまでも例外措置です」と話す。

危険ながけ地を多く抱える同市は3月11日、一般社団法人地盤品質判定士会(※)と「宅地防災等に関する協定」を結んだ。市民の宅地安全確保に向け、今後、がけ地に関する市民やマンション管理組合などからの様々な相談について市が同会の窓口を紹介するほか、職員の研修や現地調査に同行してもらい対応策などについて助言も受ける予定だという。

事故現場には今も、
亡くなった生徒を悼んで花や飲み物、
文庫本などが供えられている

 ※一般社団法人地盤品質判定士会 理事長:北詰昌樹・東京工業大学大学院理工学研究科教授。2015(平成27)年、地盤品質判定士協議会の下部組織として設立された。2020(令和2)年4月1日に一般社団法人化。
会を構成する地盤品質判定士は、宅地における地盤災害を防止・軽減するため、依頼に応じて地盤の品質を確認・評価して説明を行う地盤工学の専門技術者。宅地の造成業者、不動産業者、住宅メーカー、住宅及び宅地の取得者(購入者)の間に立ち、地盤の評価(品質の判定)に関わる調査・試験の立案、調査結果に基づく適切な評価と説明および対策工の提案等を行う。2018(平成元) 年 2 月 27 日付で地盤品質判定士は、国土交通省の「平成 29 年度 公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格」のうち、「宅地防災」の施設分野に登録され、国及び地方公共団体が発注する宅地防災に関わる業務において管理技術者・照査技術者を担当することのできる資格になった。地盤の品質に関する地盤品質評価書を発行することができる。地盤品質判定士会は、逗子市と同様の協定を横浜市、川崎市とも締結している

(阿部 治樹)

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