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「成年後見制度」利用し失職した元警備員に賠償 | 岐阜地裁が警備業法「欠格条項は違憲」の判決

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 「成年後見制度」を利用したことで警備員の仕事を失った30代の男性が、警備業法にあった欠格条項の規定で失職したのは職業選択の自由などを保障した憲法に違反すると訴えていた訴訟で岐阜地裁(鈴木陽一郎裁判長)は2021(令和3)年10月1日、規定は違憲であるとし国は男性に対して10万円の損害賠償を支払うよう命じる判断を示した。成年後見制度を利用することによる欠格条項は2019年に削除されたが、それ以前にあった欠格条項を違憲とする判決は初めて。警備業法の第三条には現在も心身の障害に関連する欠格要件があり、日弁連や市民団体などからはこうした欠格規定もなくすよう求める声が上がっている。

 朝日新聞によると、岐阜県内に住む原告男性は2014(平成26)年から警備会社に勤務し、交通誘導の仕事をしていた。その間に親族と金銭トラブルが起きたため、2017(平成29)年に財産管理をしてもらうために成年後見制度を利用した。ところが、当時の警備業法第三条で成年後見人制度を利用している人は警備業を営んだり警備員になったりすることができないと定められていたことから退職を余儀なくされたという。その後2018(平成30)年1月に「成年後見制度は財産管理の能力を判断するもの。警備の仕事ぶりにはまったく問題ないのに制度を利用したことで失職するのは不合理だ」と提訴した。判決で鈴木裁判長は、成年後見制度の前の「禁治産制度」だった1982(昭和57)年に警備業法に欠格条項が加わった当時から憲法が保障する「職業選択の自由」に違反する状態だったと指摘。「制度を利用した人を一律に警備業務から排除することは立法府の合理的な裁量の範囲内にあるとはいえない」とし、憲法が定める「職業選択の自由」と「法の下の平等」に反するとの判断を示した。そのうえで、国の責任について、2010年に関係省庁が参加する成年後見制度の研究会が「資格制限の必要性を慎重に検討する必要がある」という検討結果を示した時期以降、「規定を改廃しないままにしてきた立法不作為は国家賠償法上の違法行為に該当する」として、賠償を認めた。警備業法を管轄する警察庁は「今後の対応について、関係省庁と協議して参りたい」とコメントしたという。

 男性は、会社は法律の規定のために雇えなくなったとして会社を提訴していないが、代理人弁護士を通じ「ずっと仕事をしたかったとい気持ちはあり、悔いは残る」とのコメントを出した。弁護団は「人間の生きがいや生活を簡単に奪ってしまう法律の恐ろしさへの抗議がこの裁判の本質だ」と話す。成年後見制度の利用を欠格条項とする法律は警備業法を含め医師法や弁護士法、国家公務員法など187あったが、2019(令和元)年6月に「一括整備法」が成立してこの欠格条項は削除された。ただ、法律関係団体や障碍者団体などからは「一歩前進だが、まだ心身の障碍を理由とした欠格要件は残っている」として早期の撤廃を求める声が根強い。

 日本弁護士連合会はすでに2000(平成12)年に「障害者欠格条項の撤廃を求める意見書」を出し、「機能障害・病気を理由とする絶対的及び相対的欠格条項は原則として廃止すること」「実技を含む資格試験等で判定可能なものは資格試験等で判定すること」「資格試験については、障害者にとって欠格条項に代わる新たな障壁とならないように、点字受験や、口述受験における受験者の障害に応じた通訳の保障、口述に代わる筆談による試験の実施等、格別の配慮をすること」「一定の資格制限規定がどうしても必要なものは、機能障害・病気ではなく、『具体的に要求される能力や技能』で規定すること」などを求めた。また、「障害者欠格条項をなくす会」なども同年に出した「障害者欠格条項の包括的見直しに関する要望書」で以下のように述べている。「絶対的欠格とは、『資格を与えない』等の表現で、欠格条項に該当するとき、免許権者の裁量の余地がないとされるものである。相対的欠格とは、『資格を与えないことができる』等の表現で、欠格条項に該当していても、場合によっては与えることがあるという含みのあるもの。欠格条項に合理的理由が認められないのと同じく、絶対的欠格と相対的欠格の間にも、筋の通った分岐点は明確ではない。絶対的欠格を相対的欠格に改めるだけでは、前進とは言えない。求められている本質的能力を前提として、その人がその行為を適切な人的支援や配慮、補助的手段を利用して行えるかどうかという観点のみを基準に判断をする必要がある」。

 2019年の「一括整備法」には衆議院と参議院で同じ内容の付帯決議が添えられた。内容はこうだ。「本法成立後も『心身の故障』により資格取得等を認めないことがあることを規定している法律等について、当該規定の施行状況を勘案し今後も調査を行い、必要に応じて、当該規定の廃止等を含め検討を行うこと」。現行の警備業法第三条の七は「心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの」は警備業を営んではならないと定めている。 

 

(阿部 治樹)

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