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株式会社五十嵐商会 五十嵐和代社長③ 【私の警備道】~第3回 学校給食の残り物を肥料化、プラント建設~

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株式会社五十嵐商会 五十嵐和代社長③ 【私の警備道】~第3回 学校給食の残り物を肥料化、プラント建設~

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第1回 「女性の気付き」は危機管理  掲載中こちらをクリック 
「ていねいな仕事」モットーに60年 / アパートの一間から始まった歴史 / 「お客さんのために何かして来い」 / 夫婦が会社発展の両輪 / 「警備」につながる「連想ゲーム」 

第2回 ビジネスマナー講師と二足のわらじ 掲載中こちらをクリック 
300人中、女性3人の試験に合格 / 迷わなかった思い「両親の興した会社で生きていく」 / ビジネスマナーの大切さを痛感、教える側に / 「警備の50%は接客業」の確信  

 

第3回 学校給食の残り物を肥料化、プラント建設

 


 

プラント用地探しに奔走

 

IGARASHI資源リサイクルセンターで出来上がった肥料を確認する五十嵐社長と上田センター長
IGARASHI資源リサイクルセンターで
出来上がった肥料を確認する
五十嵐社長と上田センター長

 2001(平成13)年1月、父の跡を継いで社長に就任するとすぐに、生ごみの肥料化プラントを建設する土地探しを始めた。急いだ背景には、前年に成立した「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(食品リサイクル法)の施行が、その年の5月に迫っていたこともあった。この法律は、食品の売れ残りや食べ残しなどの食品廃棄物が急増し社会問題化してきたことを受けて、飼料や肥料の原材料として再生利用することを促進する目的で作られた。先代社長の眞一さんは法律が成立することを見越して、「食品肥料化事業宣言」を出そうとしていたのだった。「その直前に入院してしまって…。結局、その後稼働したプラントも見ないで逝ってしまいました」と和代社長は残念がる。

 生ごみを運び入れるプラント。下手をすると「迷惑施設」と地域から反対されかねない。バキュームカーに対する偏見も体験してきた和代社長は、立地を慎重に決める必要があることは熟知していた。肥料工場が建てられるのは土地の用途区分では工業地域だけ。「練馬区内にはないと言っていい状態でした。見つけても猫の額といった感じで。やる、と決めたのはいいけど思った以上に大変でした」と話す。年を越すことになるかもと半ば覚悟したとき、父が言っていたことを思い出した。「北区の浮間で発泡スチロールの再処理・加工場をやっていた人が、息子たちが跡を継がないと言って悩んでいた」。その場所なら工業地域だ。「ダメ元」のつもりで訪ねてみると廃業を考えているという。「ここしかない」と売却をお願いすると了承してくれた。難問が解決し、11月にプラント「IGARASHI資源リサイクルセンター」を完成させることができた。


 

練馬区立の小・中・保の給食回収し肥料生産

 

袋詰めされた「練馬の大地」(左)と姉妹品の「リヴァイブ練馬」。内田センター長みずから販路開拓に歩いた
袋詰めされた「練馬の大地」(左)と姉妹品の「リヴァイブ練馬」。内田センター長みずから販路開拓に歩いた

 練馬区も食品リサイクル法をにらみながら給食残飯の肥料化を計画していた。区内の会社として肥料化プラントを法律施行の年に完成させた五十嵐商会は翌年2月から区立の小・中学校や保育園などからの給食残飯を引き受けることになった。現在ではそれら約200カ所からの残飯類に米ぬかを加えて1日当たり平均5t(生産能力は最大10.8t/日)の肥料を製造している。区は「練馬区都市農業・農地を活かしたまちづくりプラン」(2009年発行)などでこの肥料を「練馬区立小・中学校の給食残菜や残飯を主な原料として作った『練馬の大地』」として紹介。「練馬の大地」の活用を地域内資源循環型社会の実現に向けて推進するとうたっている。ただ、稼働当初、肥料化する道筋はできたものの、その後の売り先の開発はまだだった。「センター長みずから、できた肥料を背負って売り込みに歩いたんですよ」と五十嵐社長は振り返る。

 そのセンター長が、プラントの立ち上げから関わった上田靖夫さん。有機性廃棄物資源化施設技術管理士として、80代になった今も「安定操業」「環境配慮」「安全確保」を運営方針の3本柱としてセンター員を指導している。上田さんは「小さなツテを頼って農家さんを回りました」と記憶をたどる。「山形県寒河江市の農家さんに行った時です。100%有機原料のいい肥料ですと言っても首を縦に振ってくれない。それじゃ、1区画タダで入れさせて下さいと提案したら『ウチの畑がダメになったらどうしてくれるんだ』と返された。その時は弁償しますからと、何とか入れさせてもらいましたね」と話す。五十嵐社長と相談して損害保険に入って備えたが、結果は上々だった。元大手百貨店グループの店長をしたこともある上田さんの経験と熱意が実った。今では福岡県のニラ、山形県のサクランボ、新潟県のコメ、埼玉県のネギ、静岡県のお茶などのほか、もちろん五十嵐商会地元の特産品「練馬大根」の生産者にも利用されている。


 

会社の使命「安全・安心」と「快適環境」を具現

 

センターでは要請に応じて見学会も開いている
センターでは要請に応じて見学会も開いている

 五十嵐社長は会社の使命を「安全・安心・快適な環境づくり」だとする。北区のこの資源リサイクルセンターはそれを具現化しているといえるかもしれない。操業以来20年間の無事故と環境規制値の無違反という事実がそれを物語っている。上田センター長は「5S運動」の飽くなき追求をその理由として挙げる。「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」。さらに「モノは定位置に、定品を、定量だけ置く」という「3定運動」も徹底する。あいまいさからくる勘違い・思い違いを避けるため、「あれ」「それ」「これ」といった代名詞を使う会話を最小限にする習慣も身に付けるようにしているそうだ。日ごろの地道な積み重ねが生きているのだと思った。

 立地は工業用地だが、近隣には戸建て住宅やアパートが建ってきた。先にできていたとはいえ、臭気、騒音、振動には非常に気を配っている。食品残渣の運搬には専用の回収ボックスと、荷台を外気より5℃低い温度に保つ保冷車を使う。堆肥化装置では搬入物の臭気の度合いによって温度を600℃~700℃に変えられる燃焼脱臭炉も使用。発酵槽に食品残渣を投入する際にはボックスごとに発酵槽上蓋の開放時間を12秒以内に設定し、臭気の飛散を最小限にしている。プラント建屋の壁面は防音の二重構造、屋根も厚さ25mmのウレタン防音、床の装置架台にはゴムパッキン工事、モーター、コンプレッサー類にも防音カバーを取り付けている。車両の出入りは午前8時前と午後5時以降は禁止、土・日は休業だ。営業日には毎日周辺の清掃をし、消防訓練も定期的に行っている。感震装置もあり、東日本大震災時には装置が作動して電源、ガス栓類は安全に止まったという。私が訪れたのは6月の暑い日だったが、いやな臭いは感じなかった。五十嵐社長が「食品工場にも負けない清潔さを実現しています。苦情はありません」というのも納得だった。


 

後で分かった「学校給食に特化しろ」

 

東京都から環境功労表彰も受けた
東京都から環境功労表彰も受けた

 「おかげさまで『練馬の大地』と姉妹品の『リヴァイヴ練馬』は口コミで広がり、好評をいただいています。福岡のニラ農家さんには通常年10回の収穫が11回できるようになったと感謝されました」と五十嵐社長。栄養満点の食材が原料だからこそ、である。しかし、「父からは、同じ食材だからとレストランの残飯には手を広げるな、学校給食に特化しろと釘を刺されていました」という。違いは何か。「給食は塩分と油分が控えめでしょう。レストラン食はどちらもより多め。それで作ると、農地に塩害を起こしかねないんですね。最近になって意味が分かりました」。先を読みつつ堅実だった父。「私は堅実どころか臆病ですよ」と謙遜する五十嵐社長だが、社長就任から数年後、今度は「指定管理」の分野への参入にゴーサインを出した。 

 

(阿部 治樹)


第4回 「恐る恐るだった」指定管理事業への参入 掲載中こちらをクリック 
副社長の提案に「ダメ元」でゴーサイン / 図書館の指定管理もジョイント形式で獲得 / 現場を不意に訪れて見える「真の姿」 / 「警備」を一生かけられる仕事に / 気分転換は週2回の水泳 

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