RISCON TOKYO 2021 | 女性に優しい組立式の災害用トイレ
カワハラ技研の「ほぼ紙トイレ」
災害で水や電気などのインフラがだめになったとき、困ることの一番目にくると言われるのがトイレ。携帯用のものやマンホール上に設置されるものなど様々な工夫が凝らされた製品が世に出ているが、会場では個室で洋式便器を備えた組立式の商品が注目を浴びていた。東京都中央区の「株式会社カワハラ技研」(川原愉・代表取締役)が2018(平成30)年に製品化した「ほぼ紙トイレ」だ。大事なキャッチコピーは「女性に優しい災害用トイレ」である。
同社企画開発部の小野奈々子部長によると、開発のきっかけは、川原社長が2016(平成28)年の熊本地震に派遣された自衛隊員から「とにかくトイレには難儀した」と聞いたこと。もともと建設業から出発した会社でもありインフラに関するノウハウがあった。社長が「それなら使えるものを造ってみよう」と取り組んだ製品だという。トイレ問題は女性により深刻で製品造りには小野部長ら女性社員らの視点が随所に活かされた。その代表例がドア。通常は外開きだが、のぞきや痴漢に悩まされ、暴漢に襲われる危険すらある女性には内開きの方が安心できる。誰かが強引に侵入しようとした場合、外開きだと力負けして防げないが、内開きならドアに体を押し付けて防ぐことができるのだという。その分、内部空間は広めで子どもと一緒に入ることも可能だ。
「紙」とはいっても、選挙の時に候補者のポスターを張るボードに使われる頑丈なもので耐水性があり屋外にも設置できる。夜間は内部の人感センサー付きLED照明がつくが、外に影は映らない。し尿をためる400ℓのタンクの上に紙の壁とドア、屋根をリベットとジョイント部材、布テープで組み立てていく。女性2人で運べて工具なしで20分あれば完成できるという。タンクのふたが床(耐荷重200㎏)になり、その一部に発泡スチロール製の便座を取り付ける。全体が六角形構造で風にも強い。50人で約1週間使用でき、バイオ製剤使用で防臭・防菌対策を取れるという。利用後はタンクを、災害時に発生する生活ごみやし尿として市区町村が処理責任を負う一般廃棄物として処分できる。新しさと性能が評価され、2019年度の東京都トライアル発注認定商品に選ばれた。
展示されているトイレに入ってみた。ステップは強化耐水段ボールで足もとは安定している。中は予想以上に広く、便座も発泡スチロール製とは思えないほどしっかりしていて腰かけても不安はない。プライバシーが確保できない避難所に設置されていれば、用を足すことに加えて貴重な一人きりの空間になると感じた。価格は1セット38万円。都立松沢病院や都立農芸高校、高知県警機動隊、川口駅周辺帰宅困難者対策協議会などに納入されている。
(阿部 治樹)