私の警備道

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株式会社セキュリティ 代表取締役:上園俊樹④ 【私の警備道】~第4回 女性も活躍できる多様な働き方推進~

私の警備道特集記事インタビュー
株式会社セキュリティ 代表取締役:上園俊樹④ 【私の警備道】~第4回 女性も活躍できる多様な働き方推進~

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第1回 サラリーマンから警備業への転身
第2回 株式会社セキュリティ設立
第3回 埼玉県警備業協会

近大マグロの養殖に明け暮れた大学時代、人事部に配属され人材採用の経験を積んだサラリーマン時代、覚悟を決めて警備業の世界に足を踏み入れ34年。魅力溢れる警備業のあり方を目指して警備道を邁進し続ける!

 

第4回 女性も活躍できる多様な働き方推進

 
1988年(昭和63年)、埼玉の地に「株式会社セキュリティさいたま」を開業。安全と信用をスローガンに、独自の採用システムと専任教官による教育システムで人材を育成し、新時代に向けたセキュリティを目指し躍進。その機動力の源となっているのが、現社名「株式会社セキュリティ」代表取締役の上園俊樹である。


 

3つの心

 

1988年(昭和63年)、上園が独立し「セキュリティさいたま」を立ち上げる際、①企業活動を通じ社会の安全と安心の提供、②企業活動を通じ社会への誠意と誠実の実践、③企業活動を通じ社会への責任と信頼の醸成に邁進する、という「3つの経営理念」と、①思いやりの心、②感謝の心、③奉仕の心、という「3つの心」を掲げて警備業の経営に乗り出した。

中でも、上園が重視したのが「3つの心」。それは、上園がサラリーマン時代、流通産業で働いていた頃に教育を受けて培った「感謝と奉仕」精神に基づいたものだった。

警備業もサービス業。感謝と奉仕の気持ちをもって仕事に臨むことが大切。感謝と奉仕の気持ちは、思いやりの気持ちがなければ培われない。上園はそう思っている。そこで、感謝と奉仕に思いやりを加えた3つの心の大切さについて、常々スタッフに話をしてきた。

制服につけるワッペン(標章)は
国の天然記念物であり、埼玉の
「県民の鳥」として親しまれている
シラコバトをモチーフにした、
親近感のあるキャラクター。
社内では上園氏に似せたという説も……。

その現場で何が必要とされているのか、警備する目的は何なのか、ということをよく考えること。現場の監督や通行人、車の運転手などに対し、きちんと目を合わせて「危ないですよ」「止まってください」と声をかけたり、態度で意思伝達をする。事務的に流さないように、その場で考えながら気持ちをこめて事にあたることが大切なのだという。

上園にとって3つの心は、自分の考え方を表現できる会社をつくりたいという願いを実現するための礎だった。

折しも、世の中はバブル景気に突入して日本経済は右肩上がり。1990年(平成2年)には、警備業が1兆円産業にまで急成長していた時期。交通誘導を主な業務としている上園の会社が、飛躍的に躍進したのはゼネコンの事業に関わるようになってから。それまでは、地元の土木工事や水道工事などでの警備業務が多かったのだが、ゼネコンの現場に警備員を派遣するようになると、現場での安全教育によって警備員のスキルが上がったことに上園は気づく。ゼネコンに派遣した警備員を他の現場に行かせてみると、業務の質がよくなったという声を耳にするようになったからだ。そこで上園は、ゼネコンの安全教育の凄さを実感するとともに、教育によって警備員に付加価値が生まれることを思い知らされたのだった。


 

警備業は育成産業

 

改めて教育の大切さを痛感させられ、3つの心の大切さを確信した上園は、以前にも増して警備員の教育に力を入れることとなる。1996年(平成8年)には、東所沢研修センターを設置(2005年・平成17年に移設)。それまで事務所に防音設備を施した部屋で行っていた研修は、専用の施設を設けて本格的に行われるようになった。

上園の会社では、事務員を含め社員全員が現場に出るだけでなく、検定資格と指導教育資格を取得することを義務づけている。そのため、社内研修では社員の誰もが教鞭をとることができるだけでなく、埼玉県警備業協会の講師も務められるレベルにあるという。高い資質と専門的な資格をもつ警備員を育成することで、東日本大震災復興工事の際には、資格者配置指定道路の警備にも対応できたという。ちなみに、資格取得のための試験費用は、社員の奮起を促すために、合格した場合に限り会社が全額負担することにしている。

「どうしてもサラリーマン時代に結びつけてしまうのですが、警備員もひとつの商品と考えると、質の高い警備員を育成することで警備の仕方に差が出てくると思うのです。当社では、警備員の質を高めるには、資格を取得するための教育もそうですが、まず警備員の心がけとして3つの心を養わせることが重要だと考えています。そして、ゼネコンのような、しっかりした現場教育で鍛えられることで、さらに質の向上が望めるのです」

埼玉県警備業協会でも、教育委員長として教育に特化した話をする機会が多くなった上園は、総合センターの建設や警備業法の改正についても熱意を注ぐことになる。余談だが、改正後の警備業法第1条に「この法律は、警備業について必要な規制を定め、もつて警備業務の実施の適正を図ることを目的とする」とあるのだが、いまだ規制法であって育成法ではない。本来あるべき姿は自分たちが警備業を育てていくという発想(育成法)でなくてはならない。というのが、上園の個人的な考えである。

警備員の教育レベルを高めるためには、教える側もそれなりの知識をもたなければならない。そこで上園は、立教大学大学院でリスクマネジメントを学ぶことにした。2001年(平成13年)、51歳のときである。会社社長、警備業協会役員、大学院生と、三足のわらじを履いて、忙しい日々を過ごすことになる。そんな多忙な中、所沢市警備業関係防犯連絡協議会を設立して会長に就任。社内に警視庁の警備担当者を配置し、社会問題となっていた児童の安全対策を打ち出すなど、地域の防犯活動にも積極的に取り組むようになった。2006年(平成18年)には、病院、学校などの施設警備を主体とするグループ企業・有限会社セキュリティ・ライセンス・KOBを設立している。


 

水滴石穿(すいてきせきせん)

 

警備員を育成するにも、人材が集まらなければ話は始まらない。2020年(令和2年)は、新型コロナウイルスの影響もあり、10月の全国の失業率は3.1%、完全失業者数は215万人で9か月連続の増加(総務省)。解雇など見込み労働者数は、11月27日時点で74,055人にものぼる(厚生省)。失職する人が増え続けているものの、警備業業界は相変わらず深刻な人材不足問題を抱えたままだ。

東京オリンピック・パラリンピックが翌年に延期され、様々なイベントが中止になるなど、警備業が受けた打撃も大きい。上園の会社も例外ではない。4月、5月は土日のイベントが中止になったことで数か月間、収益が下がったままだった。しかし、窮状を乗り切るために街路樹手入れの交通誘導など、細かい仕事を増やすことでイベント中止分を少なからずカバーでき、損失は最小限に食い止めることができた。また、助成金を利用して休業手当を出すことができ、ひとりの解雇者を出すこともなかった。

現在、グループ全体で約250人の従業員を抱える上園。2020年(令和2年)11月で古希を迎えた。

「70歳の誕生日を迎えるまでは、正直いって気が滅入っていました。足腰も弱くなってきて、あと何年元気で働けるのだろうと考えると、暗い気分になることもありました。しかし、古希を迎えてからは、ここまでやってきたのだから、残り何年か分からないけど、まだ新しいことができるのではないかと前向きになれました。社員も会社のことを考え、新しいことに取り組んでいますし、私もこれからの新しい警備業のあり方について模索しているところです」

これからの警備業は必ず変わる。上園はそう確信している。実際、コロナ禍でロボットやAIを駆使した警備がこぞって開発されている。これから世の中の状況が変わっていく中で、社会に適合した人的警備のあり方について考えるとともに、若い人たちの発想にも期待しているという。

埼玉県から「多様な働き方実践企業」
「シニア活躍推進宣言企業」に認定。

現在、積極的に行っているのが、女性の積極採用を始めとする「多様な働き方」への取り組み。埼玉県が、女性が生き生きと活躍できる社会を目指し、2013年(平成25年)から進めている「ウーマノミクス (*1)」プロジェクトに登録。①女性が多様な働き方を選べる企業、②出産した女性などが現に働き続けている企業、③女性管理職が活躍している企業、④男性社員の子育て支援などを積極的に行っている企業、⑤取り組み姿勢を明確にしている企業、の5項目と、男性の働き方見直しの取り組みが評価され「多様な働き方実践企業」に認定されている。

2017年(平成29年)には、全国警備業協会が、女性警備員の愛称を「警備なでしこ」とし、女性警備員の活躍を推進することを表明しているが、上園はそれ以前から女性警備員の付加価値を見出し、積極採用に力を入れていた。

また、女性役員の発案で、建設業で働く女性を支援するプロジェクト「けんせつ小町活躍推進計画(*2)」を提唱。建設会社と協力して女性が働きやすい環境を整えるといった活動も行っている

とはいえ、女性が警備員として働くことに対して、周囲から理解してもらえないことも多々あるという。そのため、「SDGs(*3)」(エス・ディー・ジーズ/SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOLS/持続可能な開発目標)の活動に共鳴し、この会社で働きたいと思ってもらえるような組織、環境づくりに励んでいる。

「目標を達成するには時間がかかる。私も警備業の道を歩み続け、ここまで来るのに30年以上の歳月を費やしました」

水滴石穿。これまでの人生で、持続・継続することの大切さも学んだという上園は、これからも目的に向かって水を流し続ける。

 


(*1)ウーマノミクス/ゴールドマン・サックス証券のキャシー・松井氏が提唱した考え方で、女性が生き生きと夢をもって活躍できる社会づくりを進め、それが地域経済の活性化につながるような取り組み。
(*2)けんせつ小町活躍推進計画/日建連が推し進めている、女性にとって働きやすく、働き続けられる労働環境の整備計画。「けんせつ小町」は、建設業で働く女性の愛称。
(*3)SDGs/2015年(平成27年)に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された、2030年までに持続可能で多様性と包括性のあるよりよい世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成され、人間の安全保障の理念を反映し、地球上の「誰ひとり取り残さない」ことを誓っている。

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