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愛知県は報奨金制度、静岡県藤枝市はAIで詐欺電話解析。特殊詐欺被害を防ぐ独自の取り組み

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愛知県は報奨金制度、静岡県藤枝市はAIで詐欺電話解析。特殊詐欺被害を防ぐ独自の取り組み

 全国で高齢者の特殊詐欺被害が相次いでいる。7月には、長崎県諫早市の80歳代の女性が全国防犯協会を名乗るグループに1億円以上を騙し取られた被害が発覚。京都府中区では65歳の女性が、区役所職員を名乗る男に約100万円を騙し取られる事件が発生。神奈川県横浜市ではひとり暮らしの高齢女性2人がキャッシュカードや現金を騙し取られる等の被害が起きている。

 警察庁によると、2020(令和2)年の特殊詐欺の認知件数は13,550件。被害総額は285億2000万円。2021(令和3)年1月〜6月においては、認知件数6,840件、被害総額128億8000万円。いずれも前年に比べると減少しているものの、依然として高齢者を中心に高い水準で被害が発生している。

ドローン画像
出典:警察庁「令和2年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」

 警察庁では「ストップ・オレオレ詐欺47〜家族の絆作戦〜」プロジェクトチーム(略称:SOS47)を結成し、2018(平成30)年より全国47都道府県警察、公的機関、各種団体、民間事業者等の協力を得ながら広報啓発活動を実施。これまでも金融機関、宅配業者、コンビニエンスストア等、民間事業者と連携し官民一体となって対策が講じられてきた。にもかかわらず、被害が高止まりしている要因には、詐欺グループの巧妙化する手口だけでなく、被害者側(特に高齢者)の認識の甘さもあるようだ。

 淑徳大学コミュニティ政策学部コミュニティ政策学科が、千葉県民約1万人を対象(20歳〜69歳の男女)に行った「特殊詐欺に対する知識・意識・対策行動」の調査によると、「犯罪の被害にあう可能性」に関する質問で、同性の同世代の人と比べて被害にあう可能性が「低い」または「とても低い」と回答した人は、「オレオレ詐欺」が71.5%、「還付金詐欺」が70.9%、「架空請求詐欺」が66.2%だった。それに対し、「空き巣等」が40.3%、「殺人等の兇悪犯罪」が44.8%と、ほかの犯罪に比べ特殊詐欺被害にあうリスクの認知が相対的に低く、総じて60〜69歳の高齢者においてその傾向が顕著だった。
 
 特殊詐欺被害を大幅に減少させるには、いかにして高齢者の被害を防げるかがポイントとなる。2019(令和元)年6月には犯罪対策閣僚会議で「オレオレ詐欺等対策プラン」を策定し、特殊詐欺から高齢者を守るための施策を各府省庁で推し進めており、各都道府県の警察や自治体等でも独自の対策を施す等して、活発な活動がみられる。

 愛知県では、特殊詐欺犯の検挙に貢献した人に報奨金が支払われる「特殊詐欺捜査協力報奨金制度」を7月1日から開始、来年3月31日まで実施される。特殊詐欺犯にだまされたふりをして警察の捜査に協力する「だまされたふり作戦」、あるいは有力な情報を提供して犯人検挙に貢献した人に1万円の報奨金が支払われる制度で、検挙事案等について、県コンビニエンスストア防犯対策協議会、県金融機関防犯対策協議会、県警備業協会、生命保険協会県協会で結成された「県特殊詐欺撲滅プロジェクトチーム」が、報奨金の支払いに該当するかを判断する。制度が始まって間もなく、息子をかたって金をだまし取ろうとした犯人逮捕に協力したとして、高齢者夫婦に報奨金が支払われた。特殊詐欺捜査協力に関する報奨金制度は全国で初めてで、県警では制度の周知を進めていく。

 静岡県藤枝市は、7月21日に実施宣言署名式が行われた「市民が主役!特殊詐欺撲滅作戦」の一環として、AI(人口知能)で通話内容を解析する「特殊詐欺対策サービス」(NTT西日本提供)の実証実験を実施する。通話内容から詐欺に使われやすい単語をAIが検出。特殊詐欺電話の疑いがあれば本人や親族にメールや自動音声で知らせて注意喚起するというもので、静岡県警の協力を得て効果を検証する。実証実験は、市内在住者を対象に8月下旬までに協力者を募集し、9月上旬から来年3月までの予定で行われる。
「これまで通話録音機の補助金交付等の対策を施してきましたが、特殊詐欺被害がなかなか減らない中で、警察署からの提案もあって今回の実証実験を行うことになりました。商品化されたシステムではありますが、ほかでの導入実績がないのでどのような成果が得られるか予想できません。AIがどこまで詐欺電話に対応できるのか、どのような効果があるのか実証実験で見定めたうえで、市民の皆様への利用を推進していきたいと考えています」(藤枝市役所交通安全・地域安全課)
 こちらも全国初の試みで、巧妙化する特殊詐欺にAIが進化しながら対応できるものと期待している。

 自分が騙されることはないという警戒心に欠けた高齢者を特殊詐欺から守るには、これまでの様々な対策に加え、新たな取り組みも必要になってくる。
 

(藤原 広栄)

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