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列車内の防犯カメラ義務化へ | 傷害事件続発受け斉藤国交相が表明

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列車内の防犯カメラ義務化へ | 傷害事件続発受け斉藤国交相が表明

国交省危機管理室も対策を公表

 このところ電車内で無差別傷害事件が相次いだことを受けて斉藤鉄夫・国土交通大臣は2021(令和3)年12月3日、列車内の防犯カメラ設置を義務化する考えを明らかにした。今後、満たすべき性能や費用負担のあり方など具体的な内容を専門家の意見を聞きながら検討していくという。また同日、同省鉄道局総務課危機管理室は鉄道事業者と意見交換してまとめた鉄道のセキュリティ対策を公表した。

 同日の記者会見で斉藤大臣は、10月31日の京王線車内で起きた傷害事件など乗客の安全を脅かす事件が相次いだことから、東京メトロの総合研修訓練センターで防犯関係設備を視察し、警察とも相談して対応策を考えたと述べた。その中で車内の防犯設備充実のための技術基準の見直しに言及。これまで鉄道の技術基準(鉄道に関する技術上の基準を定める省令)は、運行の安全や事故防止に力点が置かれており、防犯の観点からの基準は必ずしも十分なものではなかったとして、事件を教訓とし、車両を新しく製造する際に車内防犯カメラの設置を鉄道の技術基準として位置付ける方針であると語った。

 その上で、全国各地の路線状況を踏まえ、防犯カメラがなくても乗務員が車内の様子を容易に確認できる短編成のものを義務付けから除外するなどの検討を進めるという。費用負担については、11月26日に閣議決定した補正予算案で地域公共交通事業者に対する情報化、データ化の支援措置を講じてあり、そこから経営基盤が弱い地域鉄道事業者(全国で95社)の防犯カメラの導入を支援する考えであるとした。一方、都市部における鉄道事業者は地域鉄道事業者とは経営基盤が異なり、既に一定の地域や全車両について防犯カメラの設置が完了している事業者もあることから、有識者や専門家も加えた検討会を活用して鉄道事業者と議論を進めていくと述べた。

 また、同省鉄道局の危機管理室が公表した対策の内容は以下の通りだ。

【警備の強化】(見せる警備・利用者への注意喚起)

▶   駅係員や警備員による駅構内の巡回や車内の警戒添乗等の実施
▶   業界共通のポスターや車内アナウンス等を活用した警戒警備の周知
▶   車内や駅構内の防犯カメラの増備
▶   警察との連携の強化
 

【被害回避・軽減対策】

▶   最新技術を活用した不審者や不審物の検知機能の高度化
 防犯カメラ画像の解析などによる不審者・不審物の検知機能について、AIを含む最新技術を活用した機能の高度化や技術の共有化等を検討(最新技術の活用状況等について関係者間で共有)

▶   ピクトグラムも活用した非常通報装置等の車内設備の設置位置や使用方法のよりわかりやすい表示
▶   指令を含む関係者間のリアルタイムの情報共有
・ スマホやタブレットの活用
・ 非常時映像伝送システムの活用 等
▶   防護装備品や医療器具類等の整備
▶   車内事件発生時における現場対応力を向上させるための社員の教育・訓練
の実施及びマニュアル等の見直し
※具体的な方策の検討・実施に向けては安全統括管理者会議等を活用
安全統括管理者:鉄道事業法に基づき、各鉄道事業者が選任する安全の責任者(副社長、専務・常務取締役等)
<参考>車内への携行品に関する関係法令の整備
・適切に梱包されていない刃物の持ち込みについては、省令改正(平成31年4月施行)により禁止
・手荷物検査の実施については、省令改正(令和3年7月施行)によりその権限を明確化
 

【乗客の安全な避難誘導の徹底】

▶   ・複数の非常通報装置のボタンが押され、かつ内容が確認できない場合は緊急事態と認  識し、安全を確保するため、防護無線の発報等により他の列車の停止を図るとともに、当該列車についても速やかに適切な箇所に停止させることを基本とする
▶   駅停車時にホームドアと列車のドアがずれている場合の対応として、ホームドアと列車のドアの双方を開け乗客を安全に誘導・救出することを基本とする(11/2開催の緊急安全統括管理者会議指示事項)
 

【各種非常用設備の表示の共通化】

▶   非常通報装置に加え、車内の非常用ドアコックやホームドアの取扱い装置についても、路線の特性や装置の機能に応じ、ピクトグラムも活用した表示方法の共通化について検討・実施する
 

【利用者への協力呼びかけ】

以下の事項について、利用者への協力を呼びかける
▶   乗車時に非常通報装置の位置を確認すること
▶   非常時には躊躇なく非常通報装置のボタンを押すこと
 

【車内の防犯関係設備の充実】

以下の事項について、費用面も考慮しつつ、必要な基準の見直しや費用負担のあり方も含め検討を開始する
▶   車輛の心臓時や大規模改修時における社内防犯カメラの設置(録画機能のみであるものを含む)
▶   映像や音声により車内の状況を速やかに把握できる方法等(非常通報装置の機能向上等)

 

【手荷物検査の実施に関する環境整備】

 本年7月に改正された鉄道運輸規程に基づき、危険物の持込みを防ぐために必要に応じて手荷物検査を実施することについて旅客等に対し理解と協力を求めるとともに、車内への持込みが禁止されている物品についてのわかりやすい周知を図る。また、不審者を発見した場合の対処、検査のノウハウの共有、訓練の実施等について、警察との連携を図る

          ◇

 東京新聞が首都圏の鉄道会社12社の車両内の防犯カメラ設置について実施したアンケート調査によると、設置率は4~100%と会社によって大きな差があることが分かった。最近傷害事件が起きた小田急電鉄は車両全体では21%だが特急のロマンスカーは83%。同じく京王電鉄は17%だった。他の会社は、京急電鉄4%、東武鉄道10%、西武鉄道12%、つくばエクスプレス12%、相模鉄道33%、京成電鉄34%、東京メトロ40%、東急電鉄は100%だった。JR東日本は首都圏の在来線で100%、新幹線についてみるとJR東日本、JR東海とも100%だという。車外の指令所で映像を即時に確認できるのは3社で東急電鉄とJR東海新幹線は100%、JR東日本では85%だった。       

東急電鉄が全車両に設置したLED蛍光灯と一体型の防犯カメラ「Io Tube(アイ・オー・チューブ)」と設置映像イメージ(東急電鉄広報資料から)。

(阿部 治樹)

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