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カジノの規則案が明らかに | 「警備」は委託が可能な業務に指定

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警備員にはより厳格な制限と身元確認を要求

 日本国内でカジノを認める「特定複合観光施設区域整備法」(IR整備法)で、カジノ部分の詳細を定めることになっていた「カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則」(カジノ管理委員会規則)案の内容が2021年4月、明らかになった。この中で「警備」はカジノ事業者が外部に委託できる業務と規定された。当然のことながら警備会社が請け負うことが想定されるが、「警備」はカジノでの重要業務である分、警備員には従来に比べてより厳しい制限と身元確認、研修が求められている。それでなくても警備員のなり手が不足するなか、適格な人材の確保に打開策はあるのだろうか。

 2018(平成30)年7月に成立・公布されたIR整備法は、特定複合観光施設区域に国際会議場や展示場、劇場、宿泊施設などを設置し、「健全なカジノ」がもたらす収益を活用して地域の創意工夫と民間の活力を生かした区域整備を推進することをうたう。第3条はそのために国が適切な施策を行わなければならないとしており、政府は2020(令和2)年1月にカジノ管理委員会を設立した。委員会は内閣府の外局としてカジノ事業免許の審査、カジノ事業者の監督、依存防止対策などを含むカジノ全般の規制を行う。カジノ管理委員会規則はその要となる具体的な規定だ。

 その中で「警備」は重要な柱の一つになっている。多額の金銭が動くカジノで「公正」とともに「安全・安心」が不可欠なことを考えれば何ら違和感はない。IR整備法第114条でも「警備」は「特定カジノ業務」の一つとされ、カジノ管理委員会の「確認」を受けた人間でなければこの業務に就くことができなないと定めている。この「確認」の根幹はひとことで言うなら、その人物が反社会的な人間でないこと。この規定を受けて、カジノ管理委員会規則は詳細な書類の提出を求めている。

 「確認」を受けられない条件、いわゆる「欠格事由」は、一般の警備員に適用される警備業法の「警備員の制限」より厳しく広範囲にわたっている。まず、暴力団員や暴力団員でなくなってから5年未満の者。当然のことではあるがIR整備法は第41条に明記(警備業法では警察庁の「警備業法等の解釈運用基準について(通達)」に記載)した。賭博罪や富くじ販売罪、暴力団がらみの様々な犯罪、不法収益による法人の経営支配の罪、犯罪収益移転防止法違反の罪などで罰金刑を受けて執行を受け終えてから5年未満の場合も不可だ。年齢も20歳未満は認められていない。こうしたことを「証明」するために、カジノ管理委員会規則第115条は対象者の誓約書はもちろん、戸籍謄本と上記欠格事由に該当しないことを点検した手法とその結果を記した書類、点検で参考にした書類も確認申請書に添付しなければならないとする。加えて、対象者がカジノ警備を的確に行えることを証する書類、実施した教育・訓練の結果を記載した書類がいるほか、対象者が記入した質問票(指定の様式のもの)とその内容を証する資料、対象者の同意書も必要だとしている。
 これらの条件をすべてクリアした警備員をカジノ事業者が自前でそろえるのが簡単でないことは明らかで、警備は、カジノ事業者の業務外部委託が原則禁じられている中、例外としてカジノ管理委員会規則で外部委託できるものの一つとして認められた。求められるのは、犯罪の予防、清浄な風俗環境の保持、カジノとその周辺における秩序の維持だ。その実現のためにカジノ管理委員会規則が定めるのは、犯罪行為や迷惑行為などの秩序を乱す行為をする者・するおそれがある者をカジノに入場させないこと、そうした人間を発見するため巡回や監視カメラによる監視を行うこと、発見した場合はその行為をやめさせて退去させること、災害などの緊急事態が発生した場合に安全を確保するための必要措置を講ずることなど。警察や消防などと密接な連絡を取ることも求めている。

 従来の警備業務を受託するのに比べ、警備会社にとっては非常に高いハードルが設定されているように見える。コロナ禍の影響やカジノ予定地の住民の反対などでカジノがいつ、どこに開業するのかは未定だが、法律、施行令、規則案などが順次形になってきている以上、この高いハードルを越える準備はしておく必要があるのではないか。「セキュリティ」の確保が高い優先度を持っているのは疑う余地がない。

カウントダウンが始まった日本版カジノ。その警備について、警備業務の経験があり「警備ビジネスで読み解く日本」(光文社新書)の著書もある田中智仁・仙台大学准教授はこう話す。
「パブリック・コメントの募集が進行中で、カジノ警備のあり方がどうなるのかは正直なところ予測しにくい。ただ、欧米やアジアなど既存のカジノの状況を見ると、警備は施設管理、雑踏・交通誘導、現金取り扱いなど多岐にわたっている。そうした任務が欠かせないことを考えると、果たして日本の現在の警備業法で対応しきれるのかという思いはある。ただでさえ人手不足の中でカジノ要員により厳しい身元確認の手続きが必要になれば人員確保も大変になりそうだ。警備業法は簡単に変えられないだろうし、要員も増やしにくいとなれば、今いる警備員一人ひとりの教育・研修をはじめとする人材育成がさらに重要になることは間違いない」

カジノ管理委員会規則案については5月9日までパブリック・コメントが募集されている(「カジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則案」及び「特定資金移動履行保証金及び特定資金受入保証金に関する規則案」に関する意見募集について|e-Govパブリック・コメント

(阿部 治樹)

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