セキュリティ

オリンピック警備を終えて

セキュリティ警備業
オリンピック警備を終えて

安全安心が守られたオリンピック警備で関係者が感じ得たこと

 新型コロナウィルス感染症の影響で1年延期され、史上初の無観客開催となった東京2020オリンピック競技大会が無事閉幕した。コロナ禍ということで開催にあたっては賛否両論あったが、アスリートたちからは開催してもらえたことに対する感謝のコメントが多く聞かれた。感染症対策と安全確保を両立するため、厳重な警備体制が敷かれた今回の大会。現場ではどのような警備が行われどのような対策が施されたのか。また、警備をして何か感じ得たものがあったのか。民間警備会社で組織された「警備JV」に参加して警備にあたった関係者に話をうかがった。

感謝の言葉をかけられ警備員冥利につきる

 オリンピック・パラリンピックのホストブロードキャスターである「オリンピック放送機構(OBS)」の出入り口の警備を担当する株式会社アーク警備システム(本社:東京都渋谷区、代表取締役会長兼社長:嶋崎八洲男)の警備本部長・荒井利幸さん。
「施設に出入りする多くは外国人関係者で、様々なご案内をすることが多いものの警備業務として難しいことはありません。感染対策やテロ対策についても、入館の際にはアルコール消毒、検温、手荷物検査が義務付けられており、機器の故障等も含めトラブルは一切ありませんでした」
 警備については特に問題はなかったものの、辛かったのは炎天下での業務だったよう。
「熱中症対策として、本来3人のポジションに5人配置してもらい、常に2人が交代要員として待機している態勢をとり、約1時間交代で警備にあたりました。待機室には冷蔵庫があり、冷たい水が自由に飲め、ペットボトル用のフォルダーが支給されました。それでも熱中症を危惧するスタッフがいたため、警備員の配置場所に日除け用のパラソルを設置してもらえないかと大会警備本部に相談したところ、会場設営スタッフの賛同もあり要望を受け入れてもらえました。警備する場所によってはパラソルを設置できない所もあり、私どもの部所は恵まれているほうだと思います」
 何かあったら警備JV、もしくは警備担当エリアを管轄している警備会社に連絡することになっており、問題があれば担当者が親身に相談にのってくれ解決してもらえているという。
 パラリンピックへの移行期間である8月9日〜23日までは警備員を減らして警備を続行。パラリンピックが開催される8月24日〜9月5日まで、再び厳重な警備が行われる。約2か月もの期間、ある程度の人員を配置するとなると、通常業務への影響がないわけではない。
「オリンピック・パラリンピック開催期間は大掛かりな工事ができないと想定していましたが、実際は普段と変わらず交通誘導の仕事が入り現場が人手不足に陥ったことも。逆に、人手は足りているのにオリンピック警備に出せないことに歯がゆさを感じたこともありました」
 オリンピック・パラリンピック警備には、部所によって事前登録によるパスカードが一人ひとりに必要となるため、そんなジレンマもあったようだ。しかし、普段の業務では得られない経験を積めるというメリットもあるという。
「警察、自衛隊と一緒に警備にあたることで学ぶことも多く、警備員としての意識向上やスキルアップにもつながっています」
 オリンピックが終わると「アリガトウ」と日本語でお礼を言って帰るOBS関係者が多かったという。そんな言葉をかけられると、警備員冥利につきると荒井さんはいう。人との接触が制限される中、警備員たちの人間味ある対応が心に響いたのだろうか。オリンピック開催中、ネットニュースでは外国人記者やアスリートが日本の警備員を賞賛する記事も話題となった。

個人にも会社にもプラスになる経験値

 株式会社きたむら(本社:東京都杉並区、代表取締役社長:北村容子)は、国立競技場をはじめとする5つの競技場とプレスセンター等の周辺警備を主に、ボアンティア車両の待機場、外国人関係者が滞在するホテル等の警備を担当。取締役の勝山智仁さんによると、国をあげての大イベントなので可能な限り協力したいという強い思いで警備JVに参加。全社をあげて今回の警備に臨んでいるという。
「警備JVに事前登録した警備員は140名弱。登録不要な警備員も含めると約160人体制でオリンピック、パラリンピックの警備にあたっています。オリンピックでは、最大で140人ほど動員した日もありました。通常業務もあり警備員のやりくりに困ることもありますが、柔軟性をもって対応しています」
 オリンピック開催中は止まった現場もあり通常業務に大きな影響はなく、無観客開催になったことで想定していたものよりオリンピック警備の難しさはないという。懸念された熱中症や感染症については、屋外で警備する部所が多いため休憩と水分補給をこまめに行い、常に外にいるような状況にならないように心がけ、消毒とマスク装着、距離をとる、不要な接触を避ける、といった普段励行していることを徹底。熱中症や感染者を出すこともなく、大きなトラブルなしで現在まで警備を行えている。一部報道では外国人メディア関係者のマナーの悪さがクローズアップされたが、勝山さんが警備を担当したホテルに宿泊した外国人関係者は、愛想がよくルールもきちんと守っていただけに、報道が信じられなかったという。
 勝山さんが、ひとつだけ残念なことをあげるとすれば無観客開催になったこと。できることなら有観客での盛り上がったオリンピックの警備をしたかったという。
「オリンピック警備は通常業務より拘束時間が長く、体力的には辛い部分もあります。しかし、普段の業務とは環境や使命感が異なるため、私も含めてですがオリンピックに関われたことは少なからず今後のプラスになると感じているスタッフが多いみたいです。ですから、無観客開催になったことは非常に残念でなりませんね」
 残念ながら、8月16日にはパラリンピックも無観客開催になることが決まった。オリンピックに比べると規模が小さくなるパラリンピックだが、障がい者への対応等、警備の難しさや態勢に変わりはないのだろうか?
「全体の警備状況についてはわかりません。現段階ではパラリンピックに関する具体的な周知事項の連絡もありません。しかし、弊社では警備JVで課される教育以外に、オリンピック開催前にも独自でスタッフ全員に教育を行っていますので、状況に応じて対応できると思っています。とはいえ、障がい者の方と接する機会が増えると思いますので、そこに関しての対応については何らかの形で再度周知する必要性はあると考えています」

 警備JVへの参加要請を受け、どれだけの人員を出せるが不安もあったが、社内体制を変えてオリンピック・パラリンピックに向けて準備してきたという北村社長。世論は開催中止を望む声もあり、通常業務もやりながらの業務となるため、協力してもらえない社員もいるのではないかと危惧したという。しかし、無観客となったが大会は開催され、ほぼ全員のスタッフが参加してオリンピック・パラリンピックの警備に臨むことになった。
「今回、弊社は幹事会社として参画させていただいたことで、経験値を積むことができたと思います。この経験をいかしてイベント警備の営業も動き出しています。これからは2025年に開催される大阪万博等、大きなイベント警備にも関わっていきたいと考えております」

 いよいよパラリンピックが開幕した。 8月16日、警視庁は大会警備等の方針を確認する会議を開き、「オリンピックと比べて規模は縮小するが、困難さは何も変わらない」と斉藤実警視総監が訓示。引き続き厳重な警備体制が敷かれた。 そんななかでも警備JVには、オリンピックで外国人記者やアスリートに賞賛されたような、障がい者にも優しいフレンドリーな警備も期待したい。
 
 

(藤原 広栄)


 

Security News for professionals main center ad
Security News for professionals main footer ad