「GO TO　トラベル」全国一斉停止の影響は……

「カウントダウン」は止まっても「信仰・祈り」は止められない？

　政府は12月14日、「GO TO トラベル」の全国一斉停止を発表した。師走もほぼ半分を過ぎての決定は旅行関係の現場に様々な波紋を巻き起こしている。一斉停止を見越したように発表前に中止を決めたカウントダウンイベントがある一方で、完全に取り止めることが難しい神社やお寺の初詣などは新型コロナ感染拡大防止のための対策に力を注ぐ。例年多くの人が繰り出す年末年始の行事。警備担当者は今季、「GO TO」停止がらみの見通せない状況に神経をすり減らしそうだ。

　大みそかの夜に約10万人が集うとされる東京・渋谷のスクランブル交差点での「渋谷年末カウントダウン」は、主催の実行委員会（渋谷区、渋谷区商店会連合会、渋谷駅前エリアマネジメント協議会）が12月1日に中止を発表した。その日、東京都は65歳以上の人や基礎疾患がある人に対して都発着の旅行を自粛するよう要請。中止の発表は都の感染拡大防止に向けた動きと連動した形になった。区の担当者によると、例年は約500人の警備員と通行人誘導役の区職員約100人が出て雑踏警備に当たっていた。今年はそうした体制は取らないが、「自然発生的に人が集まる可能性があるため、何がしかの警備体制は必要」としつつ、どんな状況になるのか読めないのが悩ましいという。東京・江戸川の葛西臨海公園の「ダイヤと花の大観覧車」でのカウントダウンには例年数百人が集まるが、観覧車を運営する泉洋興業株式会社（大阪市）は「密になるのを避ける」ため今年は中止にした。横浜市のMM21地区にある同社の大観覧車「コスモクロック21」でも同様という。

　今年の正月三が日、全国で一番多い318万人が参拝した東京の明治神宮は17日、例年行っていた大みそかから元旦にかけての終夜参拝を、今年は実施しないと発表した。冬季は平常午後4時に閉門しているが、大みそかも今年は午後4時に門を閉めて参拝者を入れないことにする。元旦の開門時刻はまだ未定だが、開門以降の参拝は手洗い・消毒の徹底や神楽殿への参内は代表者を含め5人までとすること、お神酒直会はやらないなどの対応を取る。警備体制については現在、検討中だという。

　明治神宮と並んで全国トップクラスの人出がある千葉県の成田山新勝寺と神奈川県の川崎大師平間寺。新勝寺は特に参拝の規制は設けておらず、例年と同じ規模の警備体制を取る予定だ。ただ、「コロナ禍の中で人出がどれほどになるか予想が難しい」として、今も警察と相談しているという。平間寺も「今年は人出が読めない」というが、警察と相談して警備規模は縮小せずに数百人規模を維持する方針だとしている。例年正月三が日には約200万人の参拝客が訪れる福岡県の太宰府天満宮。警備担当者は「コロナ禍になる前から、一方通行や対面型にしないなど人込み対策には気を付けてきた。『GO TO』が始まった・停止になったからといってこれまでやってきたことを特に変えるつもりはありません」と話す。警察とも相談し、例年通りの約300人の警備体制を維持する。

　「GO TO」停止の影響をもろに受けつつも警備体制を変えないのが兵庫県のえびす宮総本社西宮神社。1月10日に行われ、全国的にも有名な正月・十日えびすの「開門神事・福男認証」を、14日の停止発表を受けて今年は中止することにした。午前６時の開門を待ちわびていた男女（女性の参加者も2～3割）が開門と同時に猛ダッシュし本殿一番乗りを競う様子は今や正月の風物詩の一つ。例年約5,000人が参加するが、今年は新型コロナの感染拡大を防止するため事前応募者から80人を選んで実施する予定だった。応募は15日までで、同神社の吉井良英・権宮司によると北海道から宮崎県まで900人超から申し込みがあった。神社は応募者一人ひとりに中止になったことを伝える返信を送ったという。吉井権宮司は「遠くからも参加を希望する人がいるだけに中止は誠に残念。停止決定が募集開始の11月15日前に決まっていたらと思うところはありますが…」と苦渋をにじませた。とはいえ、「走り参り」はしないものの参拝そのものを止めるわけにはいかない。今年は屋台も出ず例年約百万人以上ある参拝者が減る可能性があるが、警察からは警備を例年並みにと求められており、警備員500人規模は維持するとしている。