優成サービス「バイオトイレカー」、出番なしに | パラリンピック無観客開催のあおり受け
パラリンピック東京大会に支援車両として出動する見込みだった「バイオトイレカー」が、新型コロナウイルス感染症の拡大で大会が無観客開催になったあおりを受けて、出番なしになったことが分かった。トイレカーは、神奈川県海老名市の警備会社「優成サービス」(八木優社長)が車いすでも利用できるように開発したもので、大会開催都市の東京都が利用を予定していた。開発を手掛けた同社の八木正志会長は「残念」としながらも、「小さな警備会社の努力が評価されたことはうれしく思う」と前向きだ。
同社によると、都オリンピック・パラリンピック準備局から出番が打診されていたのは9月5日開催のマラソンに絡んで。コースはスタート・フィニッシュがオリンピックスタジアムで神田や浅草雷門、銀座、皇居外苑などを回る42.195km。トイレカーは一般観客と車いす利用者に向けて、当日朝6時からレース終了までコース近隣の公園や駐車場、公開空地などに4台出ることが予定されていた。準備局からは1台当たり50回以上の利用ができることなどが求められていた。
同社のバイオトイレカーについては、このサイトの「私の警備道 優成サービス株式会社 八木正志会長」第4回で詳しく紹介したが、開発のきっかけは会長が、工事現場や交通誘導現場のトイレ事情に改善の必要を感じていたこと。そこから試行錯誤を経て、木質チップで屎尿(しにょう)を分解する便槽をを備え、車いすでも利用できるよう電動リフトも装備したトラックに行き着いた。法令の壁を粘り強く越え、東日本大震災や熊本地震、北海道胆振(いぶり)東部地震といった災害支援や高速道路の渋滞対策などで活躍した。東京都との縁は2019(令和元)年9月1日の東京都・多摩市合同総合防災訓練だった。参加したバイオトイレカーに小池都知事が強い関心を寄せ、その後、都側とオリ・パラでの利用を念頭に置いたやり取りが続いていたという。
新型コロナの感染拡大で両大会が1年延期される間、八木会長は対策に意欲を燃やし、研究機関の実験でウイルスを短時間で不活性化させる効果が実証されたC紫外線を使った殺菌灯を開発。トイレ内の安全性を向上させたほか、車いす利用者のプライバシーを保護するために視界を遮る布製の幕も付けられるようにして出動に備えた。しかし、コロナ禍は新型株の出現などで収まる気配を見せず、準備局もギリギリまで利用を模索していたが、パラリンピック開幕直前の8月23日、出動要請見送りを決めた。
八木会長は「相手がコロナとなれば仕方がない。従業員25人の警備会社で独自に開発したものが性能と利用価値、適法性を評価してもらったことは光栄なことだと思っています」と話す。世界から来た人たちにお披露目する機会は先送りになったが、すでに国内のスポーツ大会などからは出動の打診がまた入りだしている。
(阿部 治樹)</p