RISCON TOKYO2021/ SEECAT’21 | 日常でも利用できる「日本災害食」
約200種、日本災害食学会が認定
災害時に食べるものを非常食と呼ぶことがあるが、日常でも利用できて災害時に役立つ加工食品を「日本災害食」として認定しているのが「一般社団法人日本災害食学会」(東京都港区、守茂昭・会長)だ。会場のブースには災害食のパッケージなどが並んだ。
学会は「従来の非常食は、長期保存性と災害直後の栄養摂取に重点を置いているため、多彩な需要に応えきれない場合があった」として「これまでの非常食の考えにとらわれず、『普段のように食べることができない時の食のあり方』という意味で災害食を考え、避難所や自宅で被災生活をする高齢者や乳幼児、障害者や疾病患者など、日常の社会においても特定の食事を必要とする人々、さらに救援活動に従事する人々など、被災地で生活、活動するすべての人々に必要な食事について検討されるべきである」との趣旨で2013(平成25)年9月に設立された。その趣旨の下、これまでに研究発表会、展示会、論文発表などを行ってきた。そうした活動とともに大きな柱になっているのが「日本災害食認証制度」だ。
1対象とする食品の範囲は
⑴日本人の食生活において馴染みがあり、災害に役立つ
⑵下記のいずれかで喫食できること
①そのまま喫食できる
②温めれば喫食できる(発熱剤が付いている)
③注水すれば喫食できる
④注湯すれば喫食できる
⑤温めれば喫食できる(熱源が必要である)
2開発・製造の体制は
十分な製造管理体制と設備を有すること
3衛生管理体制は
次のいずれかの基準を満たす施設にて製造を行うこと
(1) ISO22000、FSSC22000 等の国際規格の認証を取得している施設
(2) JAS 認定工場
(3)上記(1)から(3)には該当しないが、HACCP に沿った衛生管理計画を有し、自治体等 の認証を受けているか、管轄の保健所による検査などで衛生管理に問題ないことが 明確である施設
4食品に対する要求は
⑴常温で輸送、保管、販売できる製品であること
⑵1年以上の販売実績があること
⑶常温で6カ月以上の賞味期間があり、保存試験が実施されていること
⑷実食による品質確認が行われていること
(詳細は2014 (mmjp.or.jp)で)
上記の基準に沿って学会の認証委員会が書類審査する。サンプルを用いて適合検査をし、立ち入り検査をする場合もあるという。学会のデータベースによれば2021(令和3)年10月の時点で35社の192件が認証を受けている。
代表的なものが、第二次大戦中に開発されたアルファ米。尾西食品(東京都港区)の創業者・尾西敏保(はるやす)氏が潜水艦乗組員時代にカロリー重視の味気ない食事に嫌気がさしておいしく食べられる加工食品を作ろうと思ったことが原点にあるという。炊いたご飯を急速乾燥させたもので、米のでんぷんが柔らかくなった(糊化)状態をアルファ化状態ということからこう呼ばれる(ちなみに、生米や冷やご飯のでんぷんの状態はベータ化状態という)。水やお湯を注ぐだけでご飯になり、戦後は安全で保存性の高い食品として広く認知され、登山者の携行食や宇宙食にも利用されている。
ラインナップも豊富で尾西食品では山菜おこわやドライカレー、塩こんぶがゆのほかインドネシアのナシゴレンといったエスニックものもある。最近はカレーチェーンのCoCo壱番屋とコラボしたカレーセイスセットもある。アレルギー対応商品も多く、イスラム教徒向けのハラール認証を受けたものもある。特定原材料等(アレルギー物質)28品目を使っていない商品をそろえたのがアルファー食品株式会社(島根県出雲市)。アルファ米を使った五目ごはんや野菜ピラフなどの個食タイプのほか、ご飯類50食分を箱詰めした炊き出し用セットも用意している。缶や密封容器にカレーやシチュー中華丼の具などを詰めた商品を「レスキューフーズ」としてそろえたホリカフーズ株式会社(新潟県魚沼市)は、3食分を組み合わせた「一日セット」も用意。ふだんの食事に近い「スタンダード」、救援・復旧活動者向けの「カロリーアップ」、無理なく食べられる「ライト」の3種類がある。柿の種やせんべいなどで知られる亀田製菓(新潟市江南区)は舌でつぶせる柔らかなおかゆを「ふっくらシリーズ」として出した。こちらは一般社団法人健康ビジネス協議会が認証する「思いやり災害食」にもなっている。
このほかにも、カルボナーラパスタやチキンのトマトソース煮、おでん、ベビーランチなど多彩な商品が認証されている。災いの中でホッとするひと時を提供する災害食の進化に驚いた。
(阿部 治樹)