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自動ドアの事故防止を関係団体に呼びかけ | 消費者庁消費者安全調査委員会の報告書受け

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自動ドアの事故防止を関係団体に呼びかけ | 消費者庁消費者安全調査委員会の報告書受け

 生活のいたるところで利用されている自動ドアについていま、安全対策の大幅な見直しが進もうとしている。消費者庁の消費者安全調査委員会が2021(令和3)年6月に出した自動ドアによる事故の原因調査報告書を受けての動きだ。報告書は過去の事故の分析からJIS(日本産業規格)の改正も含む自動ドアの安全対策の見直しが必要だとして、経済産業大臣と国土交通大臣に対する意見で、自動ドアの製造業者や建物の設計者、所有者、管理者らに報告書が提示する安全対策を取ることを促すよう求めている。過去には開かないようにロックした自動ドアで死亡事故も起きた。危機管理の一環として利用者も含め幅広い周知が必要だ。

 今回の調査のきっかけとなったのは2018(平成30)年6月の事故。大分県の80代の女性がある店舗の引き戸式自動ドアの入り口で、先に入った人に続いて入ろうとしたところ、全開していたドアが突然閉まり始めて女性にぶつかった。女性は仰向けに倒れ、大腿骨骨折の重傷を負った。調査委員会はこの事故の申し出を受けて状況を調べ始めた。調査委員会が全国自動ドア協会から得た情報では、2015(平成27)年度からの4年間で自動ドアの事故は516件あった。内訳は打撲133件、裂傷81件、擦傷34件、骨折17件、その他・不明251件だった。この期間では死亡事故は報告されていないが、新聞報道などによれば、2010(平成22)年2月、愛知県のラーメン店で男性(当時72歳)が店から急いで出ようとして自動ドアにぶつかり、割れたドアのガラスが左太ももに刺さって出血性ショックで亡くなる事故が起こっている。この自動ドアは両開きの自動ドアだが、片側が開かないようにロックされていた。

自動ドアの一般的な構造と各部の名称(事故の原因調査報告書より)
自動ドアの一般的な構造と各部の名称(事故の原因調査報告書より)

 調査委員会が協会に確認したところだと、国内には200万台以上の自動ドアが設置されているとみられ、その9割以上が引き戸式。これを踏まえて調査委員会は調査対象を引き戸式の自動ドアにしたという。協会からの事故情報516件のうち487件(95%)を占める「ぶつかる」「引き込まれる」「挟まれる」の3類型について年齢別に分析したところ、「ぶつかる」では年齢が確認された265件のうち60代が52件(20%)でピークとなり、年代が上がるにつれ増加する傾向がみられた。転倒し骨折した事故は60代以上で 11件発生している。「引き込まれる」は年齢が確認された74件のうち、9歳以下が61件(82%)と最も多く手を引き込まれる事故が多かった。「挟まれる」では年齢が確認された57件のうち、9歳以下が17件(30%)と多く、次いで 80歳以上が9件(16%)であった。

 報告書によると「ぶつかる」事故の要因は、センサー関連の「検出 範囲不備」「故障」で70%に達し、商業施設や金融機関施設で多く発生していた。起動検出範囲を確保することで事故のリスク低減が図れるため検出範囲を確認し、測定結果に応じた安全対策をとることが重要と考えられるという。ただ、駆け込むと現状の技術では機械的な対策が困難であるため、通行者からドアの動きを認識しやすいよう、ドアの視認性を向上させる必要があるとも指摘する。「引き込まれる」事故では、ドアに手を置くことや、子どもが戸袋部領域に入り込んでいるときに大人が集合玄関の開閉装置を操作したことが主な要因で、集合住宅や商業施設で多く発生していた。こうした施設では、戸袋部に子どもの手が届かないよう対策を講じる必要があり、子どもの指が引き込まれない寸法(指に対する安全距離)や隙間を埋めるなどの安全対策も必要だという。

自動ドア事故のパターン(事故の原因調査報告書の図より)
自動ドア事故のパターン(事故の原因調査報告書の図より)
自動ドア事故のパターン(事故の原因調査報告書の図より)

 また、製品についてはセンサーの課題を指摘している。センサーは、ドアの起動及び通行者を保護する装置で、定期的な点検の必要性が取扱説明書等に明記されているが、製造業者、建物所有者及び建物管理者の実態調査の結果からは、保全費用の削減や効率的な運用が優先され、センサーの定期的な点検や交換を実施していない状況が認められた。さらに、近赤外線センサーでは、通行者の服装が床面と同様に近赤外線を反射した場合や受光量の変化が少ない場合には、検出しなかったり検出が遅れたりし、駆け込んだ場合はぶつかる可能性がより大きくなると指摘している。こうしてことなどを踏まえ、今後、JISについてはセンサー検出範囲を測定する検査器具と測定方法を規定し、完工検査書及び保全点検記録の項目にセンサー検出範囲を加えて記録するよう検討する必要があるという。また、子どもの指が引き込まれない寸法となるように安全距離を変更するか隙間を埋めるなどの設計による対策も講じる必要性があるとしている。

 報告書が提示した意見は経産大臣に対しては、「本報告書の『再発防止策』を参考に、自動ドアによる事故の再発防止のため、製造業者、原案作成団体及び保全業者が以下の対策を実施するよう促すべきである」として6項目を挙げた。すなわち:
 1 センサー検出範囲の確保
 2 保全点検及び情報共有
 3 通行者への周知
 4 JIS A 4722の改正
 5 建物設計段階の安全対策
 6 安全性を高める自動ドアの開発

 国交大臣に対しては、「経済産業省の協力を得て、製造業者からの情報提供を元に、建築設計時に主に以下の自動ドアの安全対策を講じるよう、関係団体を通じ、建築設計者に周知すべきである」とした。すなわち:
 1 通行者の動線を考慮して、センサー検出範囲の確保、斜め進入の防止、戸袋部への進入防止等について、建物設計段階から検討すること
2 タッチスイッチについては、併用センサーが装備されたものを採用すること
3 集合玄関機の設置を計画する場合には、子どもの手の引き込まれによる事故を防止するため、ドア監視の観点から共用玄関の操作者目線を考慮した操作盤の配置や戸袋部進入の防止対策などを検討すること
4 ガラス・サッシ業者を含め、自動ドアの視認性等を配慮したドアデザインの採用を検討すること

 両省はこれまでに、公益財団法人マンション管理センターや全国マンション管理組合連合会、一般社団法人日本建築士事務所協会連合会、一般社団法人全国スーパーマーケット協会、全国自動ドア協会、UR都市機構、各自治体住宅供給公社など官民の自動ドアに関わる業界団体に横断的に要請文書を送付している。報告書の全文は「 自動ドアによる事故【報告書】 (caa.go.jp) 」から。

 

(阿部 治樹)

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