特集記事

男女の平均寿命差(社会と生物両方に要因)

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男女の平均寿命差(社会と生物両方に要因)

長谷川眞理子総合研究大学院大学長が「女性の寿命と健康について」考えてみたいと、毎日新聞「時の風」に「男女の平均寿命差」と題して、その要因が社会と生物両方にあると執筆されています。その内容が分かりやすく説得力があるので大変驚き共感しました。是非多くの男性に知っていただきたいと考え、ここに紹介することにしました(以下全文を掲載)。

3月3日は国際女性デーである。1904年3月8日、ニューヨークで参政権を求めて女性労働者たちがデモ行進した日だ。

75年に国連がこの日を国際女性デーとして定め、女性の平等な社会参加の実現を、国連事務総長が加盟国に呼びかける日となっている。

04年の3月から100年以上がたち、女性をめぐる状況は徐々に改善されてきた。それを喜ぶとともに、さらなる努力を続けよう。

さて、今回は、女性の寿命と健康について考えてみたい。2018年の日本人の平均寿命は、男性81.25歳、女性87.32歳であった。これは、各年齢における死亡率などの状況が今と変わらないと仮定したとき、18年に生まれた赤ちゃんが、今後何年生きられるかの期待値を表している。

18年に生まれた人たちの中には、幼いころに亡くなる人も、働き盛りで亡くなる人もいるだろうが、逆に、100歳以上生きる人もいるだろう。それらの人々全員の生きた年数の平均が期待余命である。俗に平均寿命と呼ばれる。

ご存じのように平均寿命は常に女性の方が男性よりも長い。女性差別その他の深刻な状況はあるものの、寿命は女性の方が長い。もう30年ほど前になるが「女性たちがそんなに平等、平等と叫ぶなら、寿命も平等にしてくれ」と言った著名人がいた。発言の奥には、男性は外で一生懸命働いて苦労しているから寿命が短いのだ。女性は家でのうのうと暮らしているのに、という一種のひがみのようなものが感じられる。でも男性の寿命が短いのは、ヒトだけではない。多くの哺乳類でもそうなのだ。ここには、生物学的なものと社会状況とか複雑にからみあっている。

ある社会の乳幼児死亡率が高いと、平均寿命が短くなる。途上国の数字が低いのは、おもにそのせいだ。多くの乳幼児が成人できないから、平均寿命の数値が短くなるので、そこを生き延びた人たちは、結構長生きするのである。

つまり、平均寿命の長短には、生まれて以降の、各年齢における死亡率が鍵となる。日本の死亡率の統計を見ると、どの年齢においても、男性の方が女性より死亡率が高い。その結果、平均寿命は女性の方が長くなる。

のどに物を詰めて窒息する死亡率は、0歳の赤ちゃんでも65歳の以上でも、男性の方が高い。このことは、サラリーマン男性の働き方とは何の関係もない。しかも、現代の日本に限ったことではなく、ほとんどの国でそうだし、昔からそうである。例えば、スウェーデンには、1800年ごろからの男女の死亡率と期待余命のデータが整っている。それによると、1800年から現在まで、どの年齢においても男性の死亡率の方が高く、女性の期待余命の方が長いのである。

野生動物の寿命を測定するのは非常に困難なことだ。それでも、シカ、アザラシ、サル、チンパンジーなど、正確なデータが蓄積されている哺乳類ではみな、各年齢での雌の死亡率の方が低い。哺乳類は、雌が妊娠・出産し、授乳して子を育てるので、母親が死ぬと、現在の子も将来の子もすべての可能性がなくなる。だから、雌は死ににくくできているのだろう。一方、雄と雌が一緒に子育てする鳥類では、雌雄の死亡率の差があまりない。だから、子育てへの寄与が関係している、というような進化的説明はつけられるが、死亡率性差が生じる原因は何なのだろう?

男性ホルモンが免疫作用を抑制する、雄にはX染色体が1本しかない、などなど、男性の方が死にやすくなる原因の候補は挙げられているが、今のところ決定打はない。おそらく、要因は一つではないだろう。

というわけで、ヒトに限らず哺乳類では、雌の死亡率の方が低く、平均寿命が長くなるようだ。ところが、である。現在の世界中の医療データを見てみると、今現在生きている人々の間では、客観的にも主観的にも男性の方が健康らしい。女性の方が、不調を抱えている人の割合が高く、医者にかかる頻度も高いのだ。女性の方がからだの不調に関する感度が高いのか、これまた、その原因は不明である。

生物学的背景と社会文化的影響を分けるのは困難だ。丁寧な研究により、男女がともに快適に暮らせる社会を作っていきたい(毎日新聞「時の風」令和2年2月23日の朝刊)。

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