国家公安委員会の登録講習機関に求められる責務
令和5年、国家公安委員会の登録講習機関は、4団体となった。そこで、国家公安委員会の登録講習機関に求められる姿勢と責務について、登録講習機関である警備人材育成センター野村晶三事務局長に説明を受けた。
最近、登録講習機関の1団体が講習教本の見直しのため、講習の開催ができない状態が続いていることを聞き、その団体の姿勢に懸念を抱いています。
講習教本の適否は、登録講習機関として認定される要件の一つです。よって、教本の見直しが求められていて、講習会が開催できないことが事実であれば、登録要件の不備が生じていることになり、登録講習機関としては不適格状態といえますし、その原因・状態如何によっては、警備業法第33条の適合命令を受けることもあり得ます。
したがって、講習会の根幹となる講習教本が適正に作成できない団体があるとすれば、その団体は登録講習機関となるべき素養がないと言っても過言ではありません。
登録基準(警備業法)では、「法第26 条 国家公安委員会は、第 24 条の規定により登録を申請した者(以下この項において「登録申請者」という。)が、次に掲げる要件のすべてに適合しているときは、その登録をしなければならない。」と規定されているので、見方によっては、誰でも国家公安委員会に登録講習機関として登録されるように思われるような条文内容と勘違いをしがちですが、実は、そう簡単ではありません。
私は、昭和61年の検定の措定講習開始から講習会に係り、その後、全国警備業協会在職の13年間は、教育事業のトップとして各種講習会の教材の開発と講習会の実施の適正を図るに当たり、とりわけ、要となる講師の育成が極めて重要との考えから、講師研修会の在り方に最善を尽くしてまいりましたので、検定講習については、多くの経験をしてきました。しかしそれでも、当団体の国家公安委員会への登録には、精魂尽きる時間を費やしました。
私どもの団体が登録講習機関として登録されるまでには、講習教本、実技講習マニュアル、学科試験問題及び実技試験採点基準と採点表の適否、講師の要件の有無、講師研修会の実施状況の適否(視察)の確認に5か月を要しましたし、申請から8か月が経過して、やっと登録されました。その後、引き続き業務規程の内容の指導を受け、さらに、事前講習の視察もありました。そして約1年が経過した平成17年6月に第1回講習会を開催することができたのです。その第1回の講習会も視察を受けるなど、厳しい段階的な審査を乗り越えてきましたので、それが経験と教訓となり、登録講習機関としての責務については、思いのほか強いものがあります。
このように、登録講習機関への道のりは簡単ではありません。
登録講習制度の趣旨として、国は、「一定の水準以上の講習を実施する民間機関の課程を修了した者については、国家試験(学科及び実技試験)の一部又は全部を免除することができる」とし、当該講習機関の運営や学科試験及び実技試験に関する講習内容の一定水準確保に係る講師や施設・設備等の要件を設けており、これに適合する機関を登録(登録講習機関)することとしています。
その要旨を受け、国家公安員会の事務を司る警察庁は、「登録講習機関の登録要件及び講習会の実施基準に関する細目的な解釈運用基準について(通達)」において、国家公安委員会の登録講習機関が実施する講習会の適正な実施を図るために、実施上の細目を規定しています(以下「細目」といいます)。
その中で、登録講習機関として認定する基準は、細目「3 国家公安委員会規則で定める基準」において、登録講習機関の行う講習会が、一定の基準に適合しない方法により行われた場合には、受講者や警備業者に不利益を及ぼすだけでなく、検定の的確な実施に支障を来し、ひいては警備業務の実施の適正を図ることが困難になることから、警備業法第26条第1項第1号中「別表の上欄に掲げる科目について、それぞれ 同表の中欄に掲げる施設及び設備を用いて、登録を申請する者が特定の警備業務のいずれに係る講習会を実施する見込みであるか否かにかかわらず、別表の上欄に掲げる科目ごとにその中欄に掲げられた施設及び設備の全てを用いて行われること。」と規定しています。
よって、細目の「4 警備業務の種別に応じた講習の実施の趣旨(検定規則第17条第3号)」では、検定合格警備員となるために必要な知識及び能力を修得するために必要な講習の水準を確保するため、警備業務の種別及び検定の1級又は2級の別ごとに、最低限講習において実施すべき科目、講習事項、講習時間等について規定し、検定を合格した者と同等以上の知識及び能力を習得できる講習会としていますので、登録講習機関になろうとする団体は、この規定の趣旨に沿った、
① 実施すべき学科及び実技科目の決定
② 学科及び実技講習時間に合わせた講習事項及び講習内容の決定をし、国家公安委員会の登録講習機関としての適正を図る上で欠かせない、業務規程の作成、講習教本の作成、実技講習マニュアルを作成の上、その内容に基づく講師の研修を実施して、講師として必要な知識及び能力の習得に努めなければなりません。
これができてはじめて、細目の「7 講師(検定規則第17条第6号)」では、講師は、講習の内容に関する受講者の質問に対し、適切に応答することとし、講習中又は講習後に、講習の内容に関して受講者から疑問点や不明点等の質問がなされた場合において、受講者が質問に係る疑問点を解消し、不明点を理解できるように、講師が受講者に分かりやすく説明応答することを求めています。
さらに、細目「8 試験(検定規則第17条第7号、第8号及び第11号)」では、試験の内容、実施方法等(試験は、受講者が講習の内容を十分に理解しているかどうか的確に把握できるものであること)として、検定規則別表第3又は別表第4に掲げる各科目の講習事項について、受講者の知識及び能力を的確に把握できる試験内容、方法、出題数及び採点基準になっているものであることをいい、1級又は2級の警備業務の種別及び試験の区分に応じ、別表に定める講習事項、当該講習事項の具体的細目、出題数及び配点並びに試験実施上の留意事項を基準として、受講者が1級又は2級の警備業務の種別及び試験の区分に応じて当該講習事項に規定する知識及び能力を有しているかどうかを的確に把握する上で、これと同等以上の内容、方法、出題数及び採点基準の試験であるか否かを判断することとなりますので、試験の難易度、試験の方法、合否の判断基準が的確であることが重要となります。これが確立できなければ、登録講習機関の講習修了者が検定合格者と同等若しくはそれ以上の知識及び能力があることを明確にすることができません。つまり、適正な講習会といえないのです。
このように、講習会の実施において、講習教材、講習会場、講師の能力(学科教授力、実技指導力)、修了考査の適否を問われるのは当然のことです。
なかでも、講師の育成は極めて重要です。
講師は、講師という教える立場にありながら、もう一方には、教えた受講者の実技の習得状態を試験して、合否を決定する試験官にもなるので、右の手で教えておきながら、悪ければ左の手で落とすという、相反する役割を担うものです。そこで、講師は指導する能力(教授力)と合否の決める判断力(眼力)が講習会の適正を図る上で不可欠です。
さらに、講師の能力は、均一化されていなければ受講者にとって不公です。優秀な講師に指導を受ければ合格し、能力が少し落ちる講師に当たれば不合格になるようでは、厳正・公平な講習にはなりません。よって、講師能力の均一化は、永遠のテーマといえます。ゆえに、講師を指導する指導員の能力が重要な役割を果たすことになります。
以上のことを踏まえますと、登録講習機関は、国家資格を付与する機関としての最大の努力に基づき、国家資格者に相応しい優秀な警備員等を輩出すべき責任があります。
また、なにより受講料を払う側から言えば、試験を伴う講習会だからこそ、受講料に見合う講習会でなければならないことは当然です。さらに、不適切な講習会は、検定合格者の配置基準の有用性にもかかわりますので、この制度そのものに惡影響を及ぼす重大な問題でもあります。
私どもも、この点に特に留意し、登録講習機関としての役割を果たして行くことで、微力ながら責任の履行と存在感を高めることに努めてまいる次第です。
登録講習機関が増えることは、受講する側にとっては、自己の都合によって、登録講習機関を選択できるので、この上ない利便性を有することではあるが、一方、登録講習機関の講習内容に適否や充実性、的確性などの格差が生じることとなれば、その選択肢がマイナス要因となる場合もある。それは業界にとって極めて遺憾である。
登録制度は、登録講習機関が互いに切磋琢磨して、講習会の充実度を高めることで、受講する警備員等の知識及び能力の向上に繋がり、検定合格者の配置基準の有用性を高めることが登録講習制度の目的としている。警備業界は、この制度を活用することによって、優秀な人材の育成と確保ができるから、それが適正料金の確保や業界全体のイメージアップにも繋がっている。このような効果は、昭和61年からはじまった検定制度40年の歴史がそれを証明しており、そして、平成16年改正において、検定は、国家資格に格上げされた要因に至っている。
マンパワー産業である警備業にとって検定制度は、人財の差別化、警備員の地位向上を図る上で有用な制度である。したがって登録講習機関には、今後一層の活躍に期待をしたい。