マンション管理の新制度 | ② マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針

前回の記事マンション管理の新制度 | ① 管理認定制度と認定基準
管理組合、国、地方公共団体の役割明確に
マンション管理の新制度で、別稿で取り上げた管理計画認定制度とともに「検討会」で議論されてきたのが「マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」(基本方針)だ。こちらは昨年9月15日に国交省から示された概要案がたたき台になった。この案で最初に提示されているのが管理組合、国、地方公共団体、マンション管理士及びマンション管理業者が果たすべき役割の明確化。さらに管理組合については、管理の適正化の推進に関する基本的な指針(管理適正化指針)を定める(下図参照)。

基本方針概要案の前文では、新制度をスタートさせることになった背景が以下のように述べられている。
「マンションは都市部を中心に持家として重要な居住形態となっており、国民の一割以上が居住している。一方、多様な価値観を持った区分所有者間の意思決定の困難さなど、建物の維持管理にあたり多くの課題がある。特に、適切な修繕がなされないまま放置されると、外壁の剥落等により居住者等の生命・身体に危害を生じさせるといった深刻な問題を引き起こす可能性がある。我が国における国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与するためには、管理組合による適正管理とともに、行政がマンションの立地状況等を踏まえつつ、管理適正化の推進のための施策を講じていくことが必要である」
これを踏まえて「一 マンション管理の適正化の推進に関する基本的な項目」でそれぞれの役割を掲示している。
①管理組合及び区分所有者の役割
・マンション管理の主体は管理組合であること
・区分所有者は修繕等の必要性を十分認識するとともに、管理組合の運営に積極的に参加する等の役割を果たすよう努めること
・管理組合は管理適正化の推進に関する施策へ協力すること
②国の役割
・マンション管理士制度やマンション管理業の登録制度の運用
・標準管理規約や各種ガイドライン等の策定・見直し、長寿命化についての先進的な事例の収集・普及や技術開発
・管理組合等からの求めに応じマンション管理適正化推進センターと連携しながら必要な情報提供等に努めること
③地方公共団体の役割
・区域内のマンションの立地状況等を踏まえた計画的な施策の実行
・実態把握を踏まえた管理適正化推進計画の作成や管理計画認定制度の運用、相談体制の充実
・管理組合等からの求めに応じ必要な情報提供等に努めること
④マンション管理士及びマンション管理業者等
(マンション管理士、マンション管理業者)
・管理組合から相談や管理事務の委託があった場合には誠実な業務遂行が必要
・地方公共団体等からの求めに応じた施策協力
(分譲会社)
・管理組合の立ち上げ・運営の円滑化に向けた分譲時の適切な管理規約や長期修繕計画(案)の作成等
こうした役割分担の上で、「三 管理組合によるマンション管理の適正化の推進に関する基本的な指針(管理適正化指針)に関する事項」を次のように示す。
<1 管理組合によるマンションの管理の適正化の基本的方向>
・管理組合による適切な運営や区分所有者等による管理組合の運営への参加、外部専門家の活用時の適正な業務監視等が重要
<2 マンションの管理の適正化のために管理組合が留意すべき事項>
(1)管理組合の運営:情報開示や運営の透明化、必要な資料の整備、誠実な職務執行が必要
(2)管理規約:規約や使用細則等のルールを定め違反行為があった場合の是正措置等が重要
(3)共用部分の範囲及び管理費用の明確化:専有部分と共用部分の区分等、各部分の範囲やこれについての負担を明確化することが望ましい
(4)管理組合の経理:管理費と修繕積立金等の区分経理、帳票類の作成等による経理の透明性の確保が必要
(5)長期修繕計画の策定及び見直し等:長期修繕計画の策定と必要な修繕積立金の積み立て、これらの区分所有者等への周知、必要に応じた建替え等の検討が重要
(6)発注等の適正化:利益相反等に注意することや発注等に係るルールの整備が必要
(7)良好な居住環境の維持及び向上:防災減災や防犯への取組、コミュニティ形成は重要である一方で自治会や町内会等は管理組合と異なること等に留意することが必要
(8)その他配慮すべき事項:団地における全棟の連携や複合用途型マンションにおける住宅部分と非住宅部分との利害調整など適切な配慮が必要
<3 マンションの管理の適正化のためにマンションの区分所有者等が留意すべき事項>
・マンションを購入しようとする者は、管理の重要性を十分認識し管理規約等に十分留意するとともに管理組合及び区分所有者等はこれに配慮する必要
・区分所有者等は進んで管理組合の運営に参加するとともに管理規約や集会の決議等の遵守が必要
<4 マンションの管理の適正化のための管理委託に関する事項>
・管理事務を委託する場合には、書面をもって管理委託契約を締結することが重要
・管理委託契約先の選定にあたって管理組合の管理者等は、必要な資料収集等に努めるとともに選定時には説明会等を通じて区分所有者等に対し、契約内容の周知等に努める必要
この指針を目安に、管理組合の管理者等に対する助言、指導及び勧告がなされることになる。
この概要案に対して、委員から以下のような意見が出た(抜粋)。
前文について
・3つ目の「・」について「外壁の剥落等により居住者等の生命・身体に危害を生じさせる」とあるが、この前段に老朽化マンションが増加している点を追記した方がよい。また、「居住者等」ではなく「居住者や近隣住民」と明記してはどうか。マンション建替え円滑化法に基づく要除却マンションの位置づけとの整合性を図る意味で、基本方針にも近隣住民や周辺の住環境にとっても重要な問題であることを追加してほしい
「一 マンションの管理の適正化の推進に関する基本的な事項」について
・④の分譲会社の役割に関して、分譲時の適切な長期修繕計画案の作成は重要であり、もう少し書き込めないか。また購入時には重要事項説明に加えて長期修繕計画の内容も理解するのは難しいと思われるので、分譲会社が長期修繕計画の平易なダイジェスト版を作成して購入者に提供することも考えられないか
「三 管理組合によるマンションの管理の適正化の推進に関する基本的な指針(管理適正化指針)に関する事項」について
・〈1〉について、外部専門家の活用如何に関わらず業務監視は管理組合の役割であり、「適正な業務監視等が重要である」ことを強調しても良いのではないか
・〈2〉の(2)について、管理規約でルールを定めるだけでなく内容の周知も必要であり購入者だけでなく従前からの居住者にも最新の管理規約を定期的に配布することが必要ではないか
・〈2〉の(2)に記載の「違反行為があった場合の是正措置等」に関して、管理費等の滞納時の措置についても具体的な記述があるとよい
・〈2〉の(3)について、共用部分の範囲は法律に基づき建物の構造と機能から当然に決まるため、「望ましい」と表現することは管理組合自ら共用部分の範囲を管理規約で決められるとの誤解が生じ混乱を招きかねない。共用部分の範囲は法律で決まるが、各専有部分に共通して存在する設備等を共有部分と見なして管理組合の予算で実施した工事をめぐる裁判例もある。「明確にしなければならない」といった表現とし、工事の費用負担について明確にしておくべきではないか
・〈2〉の(3)について、共用部分と専有部分で一体的に改修工事を行う例が増え、その際に修繕積立金から支出する範囲をめぐるトラブルも増えている。全てのマンションで共用部分の範囲を明確に決めておくべきなのか、工事の合理性という観点から管理組合において一定の柔軟性を持って合意形成すべきなのか。後者が望ましいと思う一方、トラブル回避の観点から明確に決めておくことも一理あると考えられ、地方公共団体が認定を行う際に判断がぶれないよう、助言・指導・勧告に関するガイドラインでも、法律や標準管理規約の内容を踏まえた内容としてほしい
・〈2〉の(4)について、帳簿上、管理規約の規定、実際の取扱いそれぞれにおいて区分経理が行われる必要があることがわかるような記述としてほしい
・〈2〉の(5)について、長期修繕計画の策定及び見直し等に関して「必要に応じた建替え等の検討が重要」とあり、管理と建替えに連続性があることは理解できるが、建替え等を考慮するとなると長期修繕計画の見直し時に管理組合内での合意形成が難しくなる場合も想定される。そのため、建替え等の検討については本項ではなく四に記載を集約することも考えられるのではないか
・〈2〉の(6)について、発注先決定までのプロセスを透明化しておくことが必要である
・〈2〉の(6)について、「発注等に係るルール」の具体的内容はどのようなものが想定されるのか。管理、工事、施工の発注はそれぞれ性格が異なるため、管理組合が混乱しないようにしてほしい
・〈2〉の(7)の「防災減災や防犯への取組」について、管理組合の危機管理の観点から強調しもう少し緊迫感のある表現にした方がよい
・平成 29 年の個人情報保護法改正により、入居者などの名簿を管理する管理組合も個人情報取扱事業者となっている点も基本指針の中で触れた方がよい
「助言・指導・勧告を行う判断基準の目安」及び「管理計画認定の基準」について
・管理組合の運営について、総会が開催されていることの確認のため、議事録の作成・保管状況の確認が必要であるが、これは法律上の義務でもあるため、助言・指導・勧告を行う判断基準の目安として「議事録が作成・保管されていること」まで記載すべき
・管理不全に近いマンションでも、管理規約は存在するものの長期間見直されず放置されている場合もあり、助言・指導・勧告の判断基準の目安に「管理規約が必要に応じて改正されていない」と追記してはどうか。また、管理規約の原本が存在することを助言・指導・勧告の判断基準の目安と管理計画認定の基準の両方に含めてはどうか
こちらも、上記の意見を踏まえて3月中に「案」がまとめられる。

(阿部 治樹)