プロフェッショナル清掃で障がい者雇用創出と工賃向上を目指す「宮崎モデル」
障がい者について、一般労働者と同じ水準において常用労働者となり得る機会を確保することとし、常用労働者の数に対する割合を設定。事業主に障がい者雇用達成義務等を課すことで、それを保証する「障がい者雇用率制度」。事業主に対して従業員の一定割合以上の障がい者の雇用を義務付けるとして、2018(平成30)年4月1日には民間企業は2.2パーセント、特殊法人、国・地方公共団体は2.5%、都道府県等の教育委員会は2.4パーセントの障がい者雇用率が設定されたが、今年、2021(令和3)年3月1日からそれぞれ0.1パーセント引き上げられた。今回の法定雇用率変更で、障がい者を雇用しなければならない民間企業の事業主の範囲が従業員45.5人以上から43.5人以上になったことで、43.5人以上雇用している事業主は1人以上の障がい者を雇用しなくてはならなくなる。
1月15日、厚生労働省が発表した「令和2 年障がい者雇用状況の集計結果」によると、民間企業の雇用障がい者数は57万8,292人、実雇用率21.5パーセントと、17年連続で過去最高を更新。公共機関や独立行政法人等でも、いずれも前年と比べて上回る結果となり順調な伸びを見せていた。ただし、これは新型コロナウイルス感染拡大が問題になる以前の数値と考えられ、昨年の4月〜9月の障がい者の解雇数は全国で1,213人にものぼっている。前年の同時期に比べ342人、率にすると約40パーセント増加。解雇された障がい者のうち、432人が知的障がい者で前年比約80パーセント、315人が精神障がい者で前年比29%、身体障がい者466人で前年比20パーセントとそれぞれ増加していることが、全国のハローワーク等を通じた調査でわかった。
厚生労働省が2020(令和2)年2月から集計している、新型コロナウイルス関連の解雇者の統計によると、2021(令和3)年2月26日時点の累積値で「解雇調整の可能性がある事業所/12万4,948所」「解雇等見込み労働者数/9万185人」「解雇等見込み労働者数のうち非正規雇用労働者数/4万2,892人」となっている。数値は全国のハローワーク等が把握できているもので、実際の数値はもっと多く、障がい者も影響を受けていると考えられる。厚生労働省では、障がい者の雇用に向けた支援を進めていくとしているが、障がい者が働くことができる新たな仕事を創出することも課題だとしている。
障がい者の雇用を拡大しようという活動は、人手不足が深刻化しているビルメンテナンス業においても見られる。今年で創業21年を迎える株式会社グローバル・クリーン(住所:宮崎県日向市、代表取締役社長:税田和久)が中心となり、障がい者の雇用創出と工賃向上を目的に行っているプロフェッショナル清掃の勉強会「宮崎クリーン部会」もそのひとつ。障がい者福祉事業所を対象にしたこの勉強会では、プロによる清掃の基本からトイレの清掃実習、見積りや営業方法等について学び、受講した支援者が研修で学んだノウハウをそれぞれの施設に持ち帰り、障がい者に教えてプロの清掃員に育成するというシステム。8年前に2事業所が参加してスタートし、現在は7事業所に増加。開始当初は400万円だった売り上げも、7年目には3,770万円に増加。B型事業所の宮崎県の平均工賃を見ても、2010年度12,128円(全国34位)から2018年度19,218円(全国7位)と大躍進していることから、「宮崎クリーン部会」の活動が少なからず工賃向上にも寄与していることがうかがえる。
「宮崎クリーン部会」の立ち上げは8年ほど前のこと。グローバル・クリーンが環境に配慮した清掃業務を行っていることから、有害物質を含む洗剤等、危険な物を使わずに、障がい者が安心安全で綺麗に掃除できる方法はないものかと、福祉事業所から相談を持ちかけられたのがきっかけ。同社では、会社設立時から障がい者の方を雇用(同社の現在の障がい者雇用率は約10パーセント)しているが、相談をもちかけられた事業所には重度の障がい者の方もいて、相談を持ちかけられた代表取締役社長の税田和久さんは、正直言って教えることができるだろうかという不安や疑問を抱いたという。しかし、スピードや作業量は健常者と比較はできないものの、時間をかければ重度の方でもきちんと作業できることが分かった。そこで、ほかの福祉事業所でも障がい者の仕事づくりで困っている所があるのではないかと思い、県内の事業所にインフォメーションしたところ、11事業所が説明会に参加。そのうちの2事業所と宮崎クリーン部会を立ち上げ、年8〜10回のペースで勉強会を行っているという。
「宮崎クリーン部会」の講師も務める税田和久さんがこだわっているのは、プロフェッショナルの清掃。障がい者だからこれくらいのレベルで仕方ないだろうと妥協されるような清掃ではなく、適正工賃を貰えるように付加価値をつけた除菌清掃プログラムによるプロの清掃サービスを提供できるように指導している。先に述べた実績以外にも、4事業者で「スタークリーン(+チャレンジド)サービス(SCS)」というチームを組み、延岡市や日向市の市庁舎トイレ清掃を請け負う等、着実に実績を積み重ねている。SCSの清掃システムを知り、清掃業務に障がい者を雇用したいという民間企業からの相談も増えているという。
「障がい者は平日の昼間に働けるのが理想。そういう意味では、公共施設を障がい者が働ける場所として少しだけ開放してもらえれば雇用を増やせます。そこで、県や自治体に働きかけて、トイレ清掃だけを入札から外してもらって障がい者の雇用につなげる活動もしています。行政としては新たに予算を組む必要はないし、清掃業者にしてもトイレ清掃業務が少し減るだけで、大幅な収入源にはならない。誰も不幸になることなく、障がい者の雇用を生み出し工賃も上げることができます。そこで障がい者の方が実績を積めば個別の就労にもつながります。この仕組みを、私は『宮崎モデル』と呼んでいるのですが、これが全国に広がっていくことを望んでいます」(税田和久さん)
「宮崎クリーン部会」の活動視察に全国から訪れる自治体や企業関係者も多く、石川県、大分県、埼玉県でもクリーン部会が設立されている。「宮崎モデル」は全国に広がりつつある。
(藤原 広栄)